第1章 第3節
「――ふーっ、やっぱり200万以上の観客の前って、緊張するな―」
自身の出番を終え、結果発表まで手持ちむさたとなったアスカ・ホークアイは、駆け足で一路楽屋へと戻る。
「ん? ああっ、おかえり」
その楽屋のドアの前のパイプいすに座る、1人の少年がアスカの姿を見つけ、挨拶。
「うん、手ごたえバッチリ。ユウ君もくればよかったのに」
「俺は仕事中だ。流石に中に入れないからな」
「覗いたりしない?」
「するか!」
と、漫才のように仲よさそうにアスカと話す少年は、見た感じ武闘派っぽい印象を持つ。
特に眼を惹くのが、右眼にレザーの眼帯をつけ、腰のベルトに2本の刀――勿論刃などついていない、所持許可証のマークも付けられている代物をつけている事。
「……あーっ、退屈だ」
少年――朝霧裕樹は、用心棒を営む少年。
それも、アスカの様な学園都市の祭典での優勝候補から人気の高い、腕が立ち信頼のできる部類の。
「で、ボクをフった君がなんでここに?」
「人聞きの悪い上に、シャレにならん事言うんじゃない! お前のファンに聞かれたらどうする気だ!?」
「勿論、ボクの依頼を断った復讐だよ」
「スマイルで恐ろしい事ぬかすなよ! ――わかった、次回は格安で引き受けるから」
「やった♪ で、今回は誰の依頼で?」
「依頼人の名前は出せないけど、妙な連中に突き纏われてるそうだから」
「ああっ、また?」
学園都市は、競争が教育方針。
そして、此度の歌謡祭の様に競い合うイベントは、学園都市総出で取り仕切る等し、大いに競争心をかき立てている反面、その競争イベントを使い賭場を行う者も居れば、優勝者のメリットに眼がくらみ、参加者を狙っての闇討ちなどを行う事もある。
これらと、公安委員会が付きっきりになる事のイメージの悪さから、学園都市での用心棒の需要は高く、ある種の人気職種として扱われている――が、信用商売であるが故に、半端な人間ではすぐに喰いつめてしまうが。
「祭典の時期になると多いよね。もうっ……」
「ある種仕方ないさ。今音楽部門はアスカの独壇場で、対抗馬がようやく出て来たって感じなんだから」
「むーっ……」
カチャッ!
「ちょっと、ちゃんと仕事してる?」
「してるよ――ってか、色々と台無しだけど」
「成程、ユウ君がボクをフッてまで選んだのって、宇佐美ちゃんなんだ」
「えっ!!?」
「だ・か・ら、人聞きの悪い事言うんじゃない! ……さっきの格安の話、なかった事にさせて貰うからな」
「えーっ! もうっ、それ位で怒らないでよ」