第6章 第3節
「いらっしゃい」
2人が光一の部屋に出向いて、まず出迎えたのはエプロンをつけた光一。
そして……
「わっ、良い匂い」
「今度ドーナツ出す事になったから、その試作品。朝飯には丁度良いだろ? 飲み物コーヒーでよかったよな?」
「ああっ、態々悪いな」
「良いってことよ」
光一手製の朝食。
ようやくの日常の香りに、宇佐美は顔をほころばせ、裕樹もその様子を見てほっとする。
「んじゃ、俺寝るから……ふぁあ」
「その様子じゃ、昨日も寝てないな?」
「ああっ……昼まで寝るから、常識の範囲内でなら好きにくつろいでいいよ?」
「悪いな」
「んじゃ……ZZZ」
光一はベッドに寝転ぶと同時に、布団を被り寝息を立てる。
2人は光一を起こさない様に、それぞれ思い思いの時間を取り始める。
「美味しいね、コレ」
「――ま、たまには甘い物も良いか」
「ユウって朝普段、何食べてるの?」
「俺は、米焚いておにぎりにしてるよ。朝は食わないと力でないし、梅に明太子に昆布……まあ、丸ごと入れてるんだけどね」
「へえっ、意外と自炊してるんだ……まあ、あたしと同じ程度には」
「同じ程度?」
「そこは聞きながしてお願いだから」
光一の用意した朝食、ドーナツとコーヒーを2人で食べ――
「ユウでも、自主トレとかするんだね」
「しない訳にもいかないさ」
宇佐美はD-Phoneで新曲の観賞をしつつ、背にカグツチを乗せて片腕立て伏せをしてる裕樹を見ている。
規則正しく上下しつつも安定してて、崩れるようすが全くない裕樹の片腕立てに、感心していた。
「……すごいね」
「腕力には自身ある方だ……よっと」
「なんだか曲芸みたい」
回数こなしたのか、跳びはねるかのように腕を組みかえて、片腕立てを開始。
宇佐美も邪魔はするまいと口を紡いで……
『キュー、クゥーン』
『ミュ、ミュ~』
今度はシラヒメとユラが、コクテイの上でじゃれてる様子に目を向ける。
犬型のシラヒメと猫型のユラがじゃれ合ってるのは、電子召喚獣ならではの光景。
「――和むなあ」
宇佐美も女の子であり、可愛い物は好きな部類。
新曲の観賞をしつつの和み光景は、ある種の至福を齎していた。
『……ウゥゥゥッ』
『グルルっ』
その一方で、あまり癒し要素のある外見ではないコクテイが、居心地悪そうに身体を丸めて寝る姿を、カグツチが同情した様な唸り声を上げる。




