第6章 第2節
「もしもし、兄さん?」
『――無事だったか宇佐美?』
「うん、あたしは平気――ただ、ユウがいなかったらどうなってたかは、わからないけど」
『……そうか。ユウを紹介したのは、正解だったな』
宇宙としては、出来れば正解になどなって欲しくはなかった。
強い力が必要となるのは、大抵がろくな事ではないが故に。
『――すまないな。本当なら、直接会って話したいところだけど』
「良いよ。生徒会総書記の兄さんがそんなことしたら、周りに示しがつかないでしょ?」
『流石は俺の妹、とでも言うべきかな?』
「大丈夫。確かに身の危険こそあるし、恨まれたり妬まれたりはあるけど、あたしには信頼できる用心棒が居るし、目標だった人と仲良くなれたからね」
『そうか……それは良かった。宇佐美』
「何かな?」
『信頼って言うのは、甘える物じゃなくて応える物。信頼に応える事が、力になる――それを心しておいてくれ』
宇佐美にとっての宇宙は、自慢の兄。
その兄の助言ならば、宇佐美は蔑ろにせず、鵜呑みにもせず――、
「兄さんは……あたしの事、信じられる?」
『ああ。俺も、宇佐美に恥ずかしくない様に、頑張るよ』
「うん……だったら大丈夫。あたし、一条宇宙の妹だからね」
『――流石は俺の妹だ、宇佐美……ところで』
そこから雰囲気を変え、神妙な口調へと変わった宇宙の言葉を、宇佐美は表情を引き締めて応えるべく、息をのんで待つ。
『……ユウからは、何かセクハラめいた事言われてやしないか?』
「……うん、結構言われてる。あれって素でなの? それとも、ワザと?」
『素でああなんだ。悪いけど、大目に見てはやってくれないかな?』
「……わかってる。今のあたしの命運は、彼の護衛にかかってるんだもん」
『やっぱり、それ位に事態は悪くなってるか……わかった。やっぱり報告書の文字より、現場の声の方が、実感がわくな。それじゃ、もう仕事に戻らないといけないから』
「あっ、うん。ありがと、じゃあね兄さん」
会話が終わると、D-Phoneの通話をオフにして……
「よしよーし、ゴロゴロ~」
『ミュ~♪ ミュ~っ、ミュ~♪』
「……」
「ん? どうかした?」
『ミュっ?』
自身の電子召喚獣ユラとじゃれて遊んでた裕樹に、D-Phoneを手渡す。
さっきまでの姿と、猫のユラと猫じゃらしでじゃれてる姿に、ギャップがあり過ぎて面食らいながら。
「……何でもない。ユラ、そろそろ戻って」
『ミュ~!』
「でもまあ、こういうのもありかな?」
先ほどまでの双胴を思い出しながら、ユラを自身のD-Phoneに戻す。
「で、宇宙は何だって?」
「えーっと……ユウのセクハラ、大目に見て上げてくれ、だって」
「え? ……えっ!? なんで昨晩のぐはっ!!?」
「思い出させないで!! それと、忘れてって言った筈だけど!!?」
「ごめん、なんか連想して思い出しちまって。すぐ忘れる! 忘れるから!!」
「はぁっ……もう良い。あの強さに免じて、今回だけは許してあげるから」
「……だから殴った後のセリフじゃないって」
「余計な事は言わなくて良いの! ……もうっ、藪蛇だったなあ」




