第5章 第10節
襲撃の鎮圧後、女子寮付近の警備を強化するという連絡が行われ、避難してきた女子生徒は元の女子寮へと戻る事になった。
その最中で――
「――まあ、間違っちゃいないだろうな。最初こそ偶然だったかもしれないけど、宇佐美が見たって奴が宇佐美の顔知ってたら、ここが襲われた辻褄は合うか」
「……それって、やっぱり」
「心配しなくても、宇佐美が関わってるって事は、あくまで1要素でしかないよ。そうじゃなくても、プロバガンダが生業の人材が避難してるこの場所、狙わん訳がない」
「そうそう。だから、宇佐美の所為じゃねえよ」
現状把握を済ませた光一の推測に、宇佐美は俯き――その頭に、裕樹が手を置いて、乱暴に掻き撫でる。
「わっ、ちょっと!?」
「だから、暗い顔するな。気分上げろ」
「もうっ! 髪が乱れるからやめてよ!!」
「おわっと……」
裕樹の手を乱暴に打ち払って、宇佐美は裕樹から離れて抗議の視線をぶつけつつ、頬を膨らませる。
「もうっ! 励ましてくれてるのはわかるし、気持ちは嬉しいけど、もっとマシなやり方ないの!?」
「「そんなの無理に決まってる」でしょ」
「うん、それはわかってるけどさ……」
「待て! なんでお前らが返答して、宇佐美は納得するんだ!!?」
『グルルっ……』
「おいカグツチ、今のは溜息か!? 溜息じゃないだろうな!?」
いつの間にか、漫才みたいなやりとりになり、それお現在デフォルメサイズ――セントバーナード犬位の大きさになっているカグツチが、裕樹の背にしがみついて右肩に顎を乗せる、定位置での溜息の様な出した鳴き声に裕樹が怒鳴ると、3人は笑いだす。
「――ま、気を取り直した所で、そろそろ帰り支度するか?」
「そうだね。学校側も、今日は午前の履修も午後にするみたいだし――と言うか、こんな騒動起こってるのに、なんで先生達何も言わないんだろ?」
「この学園都市は生徒自治だからだよ。生徒の事は生徒で解決するのがこの学園都市のルールで、自分で悩み、考え、実行してこそ、知恵も経験も成長と言う血肉になるって言うのが、この学園都市の教育方針。基本的に教師に頼るのは禁則なんだよ」
「そうでなきゃ、俺みたいな用心棒って生業が成り立ちはしないし、治安維持組織を学生に任せたりはしないさ」
「そう言う事。宇佐美ちゃんならわかるかもしれないけど、学園都市の祭典で戦うべきは人だけじゃないからね」
「……まあ、そう言われると一理あるかもしれませんけど」
「その辺りは、ゆっくりと受け入れればいいさ――カグツチ、ちと降りてくれないか?」
『グルルっ……』
カグツチが裕樹の背中から離れると、裕樹は持ってきた荷物をカグツチの背に乗せ、く括りつけ始める。
「そう言えばカグツチって、実体化してる時って大抵のユウの背中にひっついてるね」
「ん? ――ああっ、カグツチって去年までは標準サイズ、もっと小さかったからね」
「あれ? もしかして、結構前からカグツチって、ユウの背中にひっついてるの?」
「ああっ……まあ、標準サイズが大きくなってからは、ちときつくなったけどな」
電子召喚獣は元がデジタルデータではあっても、実体化すれば質量を持つ様になる為、重さは当然存在する。
「確かに重装甲っぽいし、見た目より重くても無理ないかな?」
「ああっ、結構重いんだよ。宇佐美の方がずっとらぐへっ!!?」
「女の子を重さの対比に使わないで!!」
「……アンタどうする? 今から」
「んー……今日はもう帰るよ。流石にちょっと疲れちゃったからね」
「そう――送ろうか?」
「じゃあお言葉に甘えようかな?」
「って訳だから、荷物まとめ終わったら俺の寮の部屋に来てよ2人とも。離したい事があるから」
「あっ、ああっ。わかった」




