第5章 第3節
「……はぁっ」
眼を閉じても、宇佐美は眠れなかった
カグツチの背中の寝心地が悪い訳ではないが、結果的に追い出される形でこうなっている為に、それに対するショックは自覚していない部分であったらしい。
「――眠れないのか?」
そんな宇佐美の様子に気付いたのか、ベンチで眠っていた裕樹が宇佐美に声をかける。
「ちょっとね」
「――無理すんなよ。きつかったらきついって言ったって、バチは当たらないだろ」
「へこたれてられないよ。勝負で負けるんならともかく、こんな事で躓くなんて絶対に嫌」
「そりゃ結構だ。でなきゃ、俺も護衛のし甲斐がない」
裕樹は宇佐美の強気な姿勢に、満足そうに笑みを浮かべた。
「そう言って貰えると嬉しいよ――それ何回目かは知らないけど」
「あーっ、大体……」
「言わなくて良い。と言うか、言わないでお願いだから」
「そう?」
――何となく、裕樹の扱いが大体わかってきた事に、複雑かどうかかの言い様のない感情に悩まされるが、宇佐美は不快にならない分マシだと考え、それに関して考えるのをやめた。
「――あっ、そうだ。ところで、ユウってさ」
「ん?」
「なんで生徒会とか水鏡グループみたいな、有名所のお抱えにならないの? ――そもそも、兄さんに水鏡財閥の御令嬢からも、信用されてる位で、それが納得できるほど強いのに」
「――俺みたいなのと長く関わると、ろくな事にならんからだよ。悪いけど、任期終わったら別の人を……」
「そう言ってユウ君、ボクからも逃げたよね? 契約が切れた途端にさ」
裕樹の隣りのベンチで寝ていたアスカが、寝返りを打って裕樹達の話に割り込んだ。
――そこで裕樹は、自身が劣勢になった事を予感した。
「あの時はただ単に――」
「セクハラとか失礼な発言なら、ユウ君を雇う時点で覚悟するの常識だよ」
「……おーい? 常識は酷くないか?」
「――言われてみれば、そうですね」
「納得するの!?」
「「うん」」
声を揃えての肯定に、自身の予感が間違っていない事を確信した。
「――まさか、まだ見ぬ美女が俺を待っている……はないか」
「今なんでやめたんだ? ……続けて貰っても困るけどさ」
「女たらしな理由だったら、もっと女の子の扱い方がマシな筈でしょ――と言うか、そうじゃなくてもキチンと勉強して!」
「やめときなよ、宇佐美ちゃん。女の子の扱いが上手なユウ君なんて、最早朝霧裕樹じゃないよ」
「それ幾らなんでもあんまりだろ!」
「……ごめんユウ、全然否定できない」
「……俺寝るわ」
――2対1で散々叩かれた裕樹は、毛布にくるまって不貞寝し始めた。
「――ちょっとやりすぎちゃったかな?」
「まあまあ、ユウ君だって子供じゃないんだから、朝になれば機嫌治るでしょ――でもなんでユウ君がフリーの用心棒やってるかは、ボクも気になってるんだよね」
「――誰か女性の偉い人に、何か失礼な事やって出世できなくされた、とか?」
「いや、それはないでしょ。ユウ君の女性の扱いのヘタクソさは、保安部時代から有名だったからね」
「え? ――ユウって、保安部に居たことあるんですか?」
「うん。ボク達の年代じゃ、有名人の部類だったんだよ」




