第5章 第2節
「――そして今は、朔夜会の犬か?」
「おや、聞いてたのかい?」
「途中まではな――しかし、これはどういう事だ?」
正輝はそう言って、気絶している如月くるみに目を向けた。
彼女が朔夜会と繋がりがある――それは、先程まで交わされていた会話でわかるし、太助がその仲間である事もわかる。
しかし、保護をしに来たと言っていた筈の太助が、何をしたのかは分からないが、いきなり泡を吹いて倒れた状況と繋がらない。
「僕の独断だよ。こんなドブネズミ、抱き込んだって害にしかなんないさ」
「そうか――ならば」
正輝は表情を、保安部長官の物に変えて、拳をボキリと鳴らし始める。
「東城太助、お前が所属していると思われる反体制組織、朔夜会について話を聞きたい」
「――やめときなよ」
脇に抱えているD-TABを操作し、太助が狼や蛇と言った召喚獣を呼び出した。
「ちっ――やはり持っていたか」
「そりゃあね。でなきゃ、単身でこんな所に来やしないし、そもそもがこの違法召喚獣の基盤プログラムは、僕が作ったんだ。」
「――そうか。お前が居る時点で、それは考えられる事だったな」
「勿論、君1人どころか、ここに居る保安部だけじゃ対処しきれない数は持ってきてる――あんまりこういう事言いたくないけど、一条宇佐美が居る以上、ヘタな事は出来ないだろ?」
「……ならば何故攻撃を仕掛けない? そこまで有利な状況なら、譲歩する理由がないだろう」
「君と戦いたくないのと……」
太助が自身のそばで、泡を吹いて気絶してる如月くるみの髪を掴んで引っ張り上げ、正輝に向けて蹴っ飛ばす。
そして、D-TABを操作して――正輝のD-Phoneに、データを転送し始める。
「全てを失い、全てに裏切られて、全てに絶望して――人ではなくなったその時の事を、こいつとの会話で思い出しちゃったからね。正直、一条宇佐美を巻きこむのは、気分が悪くなったのさ」
「――太助、あの時の……」
「それ以上は言わないでくれないかな? ――破滅を望んだ時点で、人に救いなんてない所か、救世主何て存在は迷惑なだけ……人の所業の果ての現実が、僕に降りかかっただけさ。君の所為じゃないよ」
そう言ったと同時に、東城太助の姿はふっと消え去った。
その付近に、如月くるみが置き去りにされたままで。
「…………」
正輝はD-Phoneを操作し――太助から贈られたデータを、閲覧し始める。
「……これは酷いな」
「うっ……うぅっ……あっ、あれ?」
「気がつかれましたか?」
「えっと――あっ! たっ、助けて下さい! さっき、変な男に……え?」
意識を取り戻したらしい女性が、保安部員である正輝の姿を見るなり、本気で助けを求めるかのように詰め寄るのを――正輝はD-Phoneに表示された、先ほど太助から送られたデータを見せる。
「わかりました。貴方を保護いたします――その暴漢からの護衛と、この件に関する事情聴取も込みで」
「そっ、そんな……そんな……!」
「さあ、こちらへ」
「まっ、待って! そんなの、そんなの知らない! 濡れ衣よ!! お願い、やめて!!」
「――大丈夫です。人目がつかない様護送いたしますので……覚悟しておくように」
「あっ……あぁぁっ……」
膝をついて崩れ落ちるのを、正輝はフドウを呼び出し、その背に乗せる形で護送。
「人の所業の果て、か……確かに、こんな事を繰り返していれば、神も仏も――救いもなくて、当たり前か」




