第4章 第10節
「――なんでそんな格好して、こんな所に?」
「……一条の妹が襲われた等と聞いて、黙れる訳もなかろう」
「ああっ、情報入ってたのか」
「当たり前だ――それで、杞憂に終わって欲しい予想が出来てしまったのでな」
「――やっぱここで来るのね」
宇佐美は生徒会総書記の妹で、アスカ・ホークアイに並んで知名度の高いアイドル候補
生徒会に対する人質にもなり、プロバガンダにも使えると言う、クーデターを狙う側としては非常に利用価値の高い要素が揃っている。
「――人ってのは、価値で見る物じゃねえな」
「違いない……話に戻るが、これが偶然だろうとそうでないにしろ、朔夜会とやらは間違いなくここを狙って来る筈だ」
「……だろうな」
――最初の襲撃こそ、偶然で片付ける事は出来る。
しかしここが狙われ、一条宇佐美の身柄の引き渡しを要求してきたら……
「だが、この件は非常にデリケートだ。我が直々に出向けば、この騒動が一条と繋がっているのではないか――そう疑う者も出かねんが、攫われでもすればそれこそ学園都市の一大事。扱いが難しい案件である以上、慎重であるに越したことはない」
「疑うどころか、無理やりそうしてもおかしくないぞ……まあ、内外敵だらけだろうと、俺のやる事は、宇佐美の日常生活も将来も守るのみだ」
「本来、学園都市の祭典と競争が、生き血と結び付く事などあってはならんのだ――身の周りは頼むぞ」
「わかってるさ――そうだ、宇佐美にはよろしく伝えるけど、良いな?」
「――名を出すなよ?」
……その返すと、帽子を深めに被り直して一般保安部員らしく、敬礼して回れ右して去っていくのを見送り、裕樹は元の場所に戻る。
アスカと話をしている為か、いつも通りに楽しそうな雰囲気になっている事に、裕樹はほっと一息ついた。
「あっ、お帰り」
「何の話だったの?」
「――宇宙に世話になった事があるから、宇佐美によろしくって」
「兄さんに? ――それなら……」
「宇佐美も色々あって、疲れたろ? だから明日改めて出直すって」
「――そっか。うん、わかった」
そう言うと、宇佐美はカグツチの背の上で、枕に顔を埋め始め――眼を閉じた。
「さて……ちょっと荷物と毛布、取ってくるね」
「? 荷物?」
「ボクもここで寝ようかなって思って」
「――はい?」
「どうせ危ない事に変わりがないんなら、信用できる人と一緒の方が安心だからね」
「そりゃどうも。じゃあ俺、こっちのベンチで寝るから」
「ん、わかった」
そう言って、アスカは一路難民キャンプと化したダンスホールへ。
それを見送り、宇佐美から寝息が聞こえた所で――
「――もしもし、俺だ。経過は? ――ああっ、やっぱりか……いや、今ちょっと拙い事になっててな……そう、それ。だから、急いで頼む」
「――了解」
――裕樹の通話相手が、通話を切るのと一緒にパソコンの電源を切る。
「――まさか散発的な騒動が、いきなり最初から大当たりに繋がるなんてな」
そして椅子から立って、クローゼットを開いて――
「お疲れ様、シラヒメ。もう良いよ」
『クゥーン』
「……行くぞ、コクテイ」
『――グルルっ』
「さあ……狩りの時間だ」




