第4章 第6節
「ちっ……流石に末端だろうと、尻尾を掴んだ途端に対応が早いな」
『パパ!』
「まだダメだ」
コートにマスク、フードを被っている、どう見ても不審者ですと言わんばかりの格好の為に、顔は見られてはいない。
しかし、違法召喚獣にてこずってとはいえ、彼らも訓練を積んだ保安部であり、対応自体は悪い物ではない。
「居たぞ! こっちだ!!」
「くっ……!」
「こちらB班! 不審者は北側に逃げたぞ!」
『了解!』
流石に撃ち落とされる、あるいは着地点を察知される危険性を考え、宇佐美に見つかった地点からは、屋上伝いに逃げていた。
所々で違法召喚獣を駆使し、路上に降りたりそれを盾に逃亡したり、路地裏に駆けこんだりと、保安部の追手から逃げ続ける。
「……さて、どうしたものかな?」
彼の作成した違法召喚獣は、あくまで一時的に素体を騙して戦闘用に仕立て上げている為に、数をストックせねばならないリスクがある。
その数も徐々に尽きている上に、機動部隊と出くわしでもすれば、数を出さねば対応はできない。
『シャーっ!』
『ピイィィッ!』
「うわっ!」
大蛇と鷹が襲いかかるのを、紙一重で回避――と言うより、こけてたまたま避けられたという表現が合う体勢で、這う様に逃げ出す。
『ゴォォォオっ!』
「くっ……!」
その時間差で、サイが突進。
『ブモーーっ!!』
それを、咄嗟にD-TABを操作し、バッファローを呼び出しぶつける。
「……拙いな、もう機動部隊が来たのか」
保安部機動部隊。
朝霧裕樹、久遠光一らが受けていた訓練を受けている、最も危険な現場で身体を張る、凶悪犯罪専門の精鋭部隊。
この手の暴動に対するべく訓練された部隊である。
「――こんな事なら、もっと数揃えとくんだったよ」
ぼやきつつも、逃げ足は止まらない。
バッファローが食いとめている間に、踵を返し……
『パオオォォォォオッ!』
『ウウゥゥゥウゥゥッ!』
「……流石にこれは、きついな」
その先に突如ゾウや豹が現れ、その行く先を阻み始めていた。
「反体制組織、朔夜会の構成員に告ぐ! 無駄な抵抗はやめろ。君はもう包囲されている。大人しく武装を解除し、降伏しなさい!」
「……ふーっ……マスクして走るの、やっぱきついな。さて……どうしたものかな?」
「繰り返す! 君はもう包囲されている。無駄な抵抗はやめて、大人しく投降しなさい!」
「――会話が成り立つのはね、人間同士である事前提の上で物だよ」
機動部隊の電子召喚獣達の威嚇咆哮に怯みもせず、一歩踏み出し――
「――!」
宣告をしていた機動部隊員と目が合い――機動部隊員は声にならない悲鳴をあげ、顔を青ざめさせた。
「僕は奴隷であり、人ならざる外道だからね。人である事を奪わ……いや、失った僕に、人としての物なんて何もありはしないよ」




