第4章 第5節
「……ふぅっ」
風呂からあがって、身体のケアをしてから、ベッドに横たわり、イヤホンを取りつける。
D-Phoneにアップした音楽を再生し、そっと目を閉じる。
「……」
住む世界が変わった……とは、こういう事かも知れないと、ぼんやりと思っていた。
始まりだって、兄が生徒会総書記だと言う事でやっかみを受けていたし、この前の歌謡祭の選抜を受けた時も、周囲から酷く嫌われていた記憶はある。
どんなに正論を言い繕った所で、感情で納得出来るかは別で。
幾ら実力があった所で、下級生に追い抜かれて悔しくない訳がない――増してやそれが、変な方向に爆発しない訳がない。
「……でもまさか、なあ」
宇佐美の中では、如月くるみと言う人物は癒し系と言うだけあって、性格は穏やかで何度もケンカの仲裁をしてる様な、荒事とは無縁な人物。
しかし、相手も人間――どこかでほころびが生じる物で……。
「……やめよ」
疑い出すとキリがない――増して、こんな風に疑心暗鬼に囚われて日々を過ごした所で、良い結果につながる訳がない。
とりあえず、女性の扱いがヘタクソでも護衛としては確かな裕樹と、その電子召喚獣カグツチも居る事だし、光一の調査結果が出るまでは、いつも通りで居ればいい――そう割り切り、イヤホンを通じて聞こえてくる音楽に集中。
ドォンッ!
「!? 何!?」
していたところへ、突如の轟音。
『緊急連絡! 寮付近で、違法召喚獣が出現しました。寮生の皆さんは、速やかに指示されたルート通り、避難を始めて下さい! 繰り返します。緊急警報!』
更にD-Phoneからは、音楽が止まって緊急連絡の通告が。
宇佐美はベッドから飛び起きて、カーテンを開けると……
『ゴアァァァアッ!!』
『ピキーーっ!!』
「くそっ! 機動部隊はまだか!?」
「避難を急げ!!」
外では、真っ黒な熊と巨大な芋虫――あの違法召喚獣と同じような様相の2匹が暴れ、保安部員と思われる人達がそれぞれ電子召喚獣を呼び出し、応戦。
しかし、それ程育っている訳ではないのか、数体がかりで熊と芋虫に押されている状況で、それを本人たちも理解しているのか、時間稼ぎと防御を念頭に置いて、相対していた。
『グルルッ!』
「うん、護衛お願いねカグツチ! ユラ、案内お願い!」
『ミュウっ!』
宇佐美は2体の鳴き声を耳にした途端、すぐに上着を羽織って外へ……。
「ん?」
向かうべく、上着に手を伸ばして窓を閉めようとしたその時――
向かい側の建物の屋上で、2体の違法召喚獣と保安部の競り合いを眺めつつ、何かを操作する人影が見えた。
「……あれは?」
「――!」
その人物は宇佐美に気付いたのか、端末を操作し――
『クカアァァァアアッ!!』
大型の鴉型の召喚獣を呼び出し、宇佐美にけしかけさせ……
「ひっ……!」
『グガアアアアアッ!』
その宇佐美を庇う様に、カグツチが窓から飛び出し、喰らいて程なく分解され四散する。
『グルルルルルルッ!』
カグツチがギロリと、けしかけた張本人に向けて威嚇する様に、唸り声を上げる。
「あれは、カグツチじゃないか!?」
「あれ? でもここって……女子寮だよな?」
「バカ野郎、ここに雇い主が居るって事だろ! ってか、今新手のが出てなかったか?」
「――包囲を急げ! あそこに現行犯が居るんだ!!」
「……これはヤバいな。すぐに逃げないと」
『パパ、僕が……』
「ダメだ。まだそのときじゃない!」




