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第4章 第1節

「首尾はどうかな?」

「上々です。保安部も総出で警戒はしている様ですが――その隙をついて、大暴れでございます」

「この広い学園都市で、全体を保護するなど不可能ですからな。執行部も北郷正輝を引き抜こうとしてまで、自己保身に走る始末――最早瓦解も、時間の問題です」

「はっはっは! そうだ、これこそが真なる評価だ! 俺が受けるべき、真の評価だ!」

 場は、格式の高い料亭を思わせる、広い和室。

 そこでは豪華な食事を並べた宴席が設けられており、膳を前にさながら宴会かの様に、各々の成果を語っては盛り上がる、顔の上半分を隠す黒い仮面をつけた男子生徒達。

 その中でも上座についている男――この集会、朔夜会の首領と思われる者は、さも満足そうに笑いながら、杯……と言っても、ウーロン茶で満たされたそれを、グイッと飲み干した。

「全ては手筈通りの上に、実行部隊の士気は高まるばかり」

「保安部も、正面からやり合えば厄介な相手ではあるが、それはあくまで精鋭たる機動部隊のみ――それさえ掻い潜れば、こちらは被害は少なくて済む」

「我らの名声は、直に学園都市全体に広まる事でしょう――我等朔夜会がこの学園都市を牛耳る日は、最早目前と言っても良い」

「はっはっは、容易い容易い!」


「……」

 その中でただ1人、そのやりとりを冷ややかな目で眺めつつ、黙々と善の食事に舌鼓を打つ事に専念する、白衣の上からヌボーっとした雰囲気を纏った、冴えない風貌の男がいた。

「どうされた? 先生」

「……その呼び方やめてくれませんか? 僕は別に、教員って訳じゃないんですから」

「これは失礼。ですが、貴方なくしてこの計画は実行に移せなかった――それに対する敬意を評してのつもりだった事は、ご理解いただきたい」

「……気持ちだけ受け取っておきます。話に戻りますが、僕としてはまだ試作段階のあれを乱発する事には、賛成できませんね。あれはまだ素体を一時的に騙すだけの物ですので、幾ら数を揃えても今以上の成果は望めません」

「時間制限がある事は百も承知。ですがそれでも、高ランクの戦闘型電子召喚獣が量産できる事は、大きな強みではないですか。現に保安部は対応しきれてはいませんぞ」

「その通り! 制限こそあれど、ヘタな人員よりもよほど役に立ちます」

 その言葉に、周囲はうんうんと頷くのを見て――白衣の男は、ため息をついた。

「――所詮はチンピラか。頭の中がおめでたすぎるバカだ、こいつ等」

「ん? 何か仰られたか?」

「いえ、何も……じゃあ僕はこれで失礼しますよ。今日手に入ったデータの検証がありますので」

「おおっ、頼むぞ」

「――礼は要りませんよ。野垂れ死にし掛けた僕を拾って頂いた恩を返す為ですので」

「うむっ。成功した暁には、貴方の無罪証明と、貴方の研究が正当な評価が出来る様に、便宜を図らせていただく」

 その言葉に返す様に、白衣をまとった男はにこりと笑って礼をし、その場を後にした。

 ――襖を閉めた途端、その笑みは嘲笑の物へと変貌させて

「バカバカしい、これだから三流は……理想に自分の利益を求めた時点で、行動は間違いなく利己的な物に限定される物なのに」

『――ねえパパ』

「――出るなって言ってるだろ?」

 電子的な声が響くタブレットは自己開発品であり、DIEシステムを介さずとも電子召喚獣を呼び出す事が出来る優れ物である。

『退屈だよ』

「我慢しろ。君の存在、朔夜会に知られる訳にはいかないんだから」

『大丈夫じゃないの? ドラゴンとかライオンとか、強そうなのしか見そうに奴しか居ないんだから、あの連中は』

「――まあ確かにね。さて、お仕事お仕事っと……」

『熱心だね。どうせ失敗する事なのに――」

「僕にだって良心位あるよ。良心って言うのは、他人を傷つけ、見捨てる事に痛みを感じる物なのさ――どんな理由があろうともね」

『ふーん……パパもそうなの?』

「そうだよ。そして良心がない人間っていうのはね、他人を好んで地獄に叩き堕として笑いたがるのさ――さて、行こうか」

 白衣の男は、一歩前に進み――

「『全ては“機械仕掛デウス・エクスけの・マキナ”の導きのままに』」

 電子的な声とそろえ、その場を後にした。


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