第3章 第10節
「何度言われても答えは同じです」
「……何故拒否する? 生徒会直属のSP隊長の異動命令だ。保安部長官以上の暮らしも、名声も得られるんだぞ?」
「何度も言いましたが、生活ならば今以上の物などいりません。地位ならば、保安部長官で十分です……では、仕事がありますので、これで」
「待て! 話はまだ終わってないぞ!!」
「生徒会からの呼び出しと言えど、あまり長時間留守にはできません。では」
「待て北郷!!」
学園都市、生徒会議事堂ビル。
学園都市行政の中心であり、執行部の本拠地兼居住施設であり、重要会議が行われる議事堂である、生徒会執行部の所有するビルのその1室にて。
相対していた執行部員の怒声を背に浴びながら、北郷正輝は応接室を退室してドアを乱暴に閉める。
「――それに勧誘するにしても、時と場合を考えて貰いたい物だ」
朔夜会と名乗る一派の暴動による激務の最中に、生徒会からの呼び出しを受け、来てみればの勧誘話。
保安部に対する措置かと思えばの、期待外れな話に落胆しつつも、腹の奥底が煮え繰り返る様な怒りを感じていた。
「あれ? 北郷じゃないか」
「ん? ――ああっ、一条か」
生徒会執行部総書記、一条宇宙。
一条宇佐美の兄に当たり、現生徒会においての総書記――学園都市の生徒会書記の最上位に位置する職務に就いている男。
「――また昇格を蹴ったのか?」
「我を通す為に、今以上の地位などいらん――それに、昇格と言えば聞こえはいいが、実際は自己保身の道具だろう」
「――すまんな。でも朔夜会って云う、反体制組織と思われる暴徒が使う違法召喚獣……あんなものが出てきた事で、執行部にも不安は広がっててな」
「……自己保身を悪い、とまでは言わん。だが、初等部や中等部の見てる前で、他人の見捨て方、責任の逃れ方を教える様な事だけはさせるなよ」
「ああっ、肝に銘じておく」
宇宙は頷いて拳を握り、正輝のそれと合わせた。
「それはそうと、一条。お前の妹に会ったぞ」
「宇佐美に?」
「ああっ――朝霧を紹介したのはお前か?」
「そうだけど……何か変な事になってたか?」
「いや、いつも通りだ」
「……いつも通り、か?」
「ああ、いつも通りだ」
その言葉だけで、2人は納得し合うように頷いて……
宇宙は天を仰ぎ、はあっとため息をつき、正輝もその様子に肩をすくめて、しょうがないという感じで何も言わずにいる。
「……護衛としての腕と、ある意味変な事にならないって意味じゃ、これ以上なく信用は出来るんだけど」
「女が喜びそうな事は出来ても、雰囲気作りがこの上なくヘタクソな奴だ。男女の進展的には、よくても一進一退だろう」
「……だろうな」
宇宙も正輝も、裕樹とはそれなりに長い付き合いがあり、お互いの事は良く理解し合っていた為、立場を超えた友人と言う感覚で通っている。
勿論、裕樹の女性に対しての扱いのヘタクソさも、よく知っていた。
「――でもその割には、何故か女性からの依頼が多いのは何故なんだろうな?」
「ある程度に目をつむれば、理想的な護衛である事は確か――と言う口コミがあるらしい。それと北郷、時間は大丈夫か?」
「おっと……流石にこれ以上はダメだな。では」




