第3章 第7節
保安部による緊急厳戒態勢が敷かれ、朝は閑散とした集団登校。
そして、基本科目こそ平常通りに行われたが、午後からの選択科目は物によっては潰れた物が多く、外出にも制限が出来ている為に、大半のスケジュールが狂っていた。
「んーっ……何かレイアウトで良い意見あるか?」
「そうだな……やっぱりさ、眼を惹く何かが欲しいな」
「うーん……やっぱ、まだまだ真新しさがないなあ。このデザインじゃ……」
「おーい、野球部は部室に集合だってよ! ミーティングやるってさ」
「サッカー部、室内練習場の許可が取れたぞ!」
ただ、生徒自治の学園都市の住民は、その程度では揺るがない。
空いた時間を、それぞれが新しい案や試みを考えたり、勤務先の仲間同士で相談し合ったり、部活だったらミーティングや室内練習などに力を入れたりと、思い思いに時間を有意義に使っていた。
「――皆たくましいね」
「そりゃ、この学園都市は生徒自治だからな。一部例外は存在するけど、基本的に皆たくましいさ」
「基本的に、ね……」
そんな中で、裕樹と宇佐美は2人で本日はレストランで食事に。
流石に緊急事項と言えど、ライフライン系の店の営業が止めては、都市機能にも影響する為に、制限つきではあるものの普段通りの営業となる。
ただ、当然だが皆大なり小なり、不満や不安を抱えた状態で、落ちついてるとは言い難い状態だった。
「宇佐美、今日の授業は?」
「――全部潰れちゃったから、買い物してから部屋に帰ろうかな? 家でもストレッチとか、新曲聞いて勉強したりとかは出来るからね」
「いや、宇佐美も十分たくましいって――じゃ、俺は光一ん所行きたいから、一緒に行く?」
「――そうね。あたしも巻き込まれた訳だから、真相は知りたいよ」
「じゃ、決まりだな」
「お待たせ致しました。こちら、レディース定食とアイスティー、大盛り焼肉定食とコーラになります」
そこで会話を切ると、ウエイトレスがトレイを手に、女性の一般的な量の定食を宇佐美に、2人前はありそうな香ばしい香りを出す定食を、裕樹の前に置いてから伝票を渡して、戻っていくと2人は食べ始める
「女性が小食だなっていつも思うけどさ、それだけで足りるの?」
「保安部の食事と一緒にしないで。女の子の食事の量なんて、普通はこんなものよ。それよりそっちも……」
「足りるし、俺焼き肉とコーラが大好物だからね。食べてみる?」
「いらない。歌は喉が命なんだから、辛い物とか炭酸飲料なんてもっての他なの」
「へえっ――色々と大変なんだな」
宇佐美が護衛を依頼してから、一緒に食事をする事はあったが、大抵光一が一緒だった為に2人きりでと言うのはなく、2人はちょっとしたデート気分でランチタイムを満喫し――
「失礼いたします」
その最中で店内に入ってきた保安部員に、2人は目を向ける。
「巡回かな?」
「だろうよ。流石に全店舗に配置は出来ないし、何より――」
「――そうだね。流石に見張られての食事なんて、良い物じゃないからね」
そこで会話を打ち切って、食べ終わるとレジへ向かい――入ってきた保安部員と鉢合わせる。
「あっ、朝霧さん」
「ん? ようっ、仕事ご苦労さん」
「あっ、待ってください。長官からの言伝があるので、こちらを」
そう言って、D-Phoneを取り出すと、裕樹もそれに倣って自分のを取り出し、それに向けてデータが送信される。
「では、確かにお伝えいたしました」
「ああっ、わかった」
会計を済ませ、駐車場のバイク区画に置いてある裕樹のバイクに跨り――裕樹は、D-Phoneに送られた文書を読み始める。
「――なんだ、よくわかってんじゃん」
「何?」
「光一の所行くんなら、差し入れ持ってってくれとさ。ついでだし、買い物済ませてく?」
「うん、そうする」
――そして。
「おうっ、いらっしゃーい」
それから少し時間を開けて、2人は光一の元へと尋ねる。
偏光メガネをかけ、Tシャツにトレーナーという部屋着のまま、疲れた雰囲気を隠そうともせずに、光一は2人を出迎えた。




