第3章 第6節
「欠席者はいませんね? では行きますよー」
「こちら初等部先導組、第4班。第4男子寮点呼終了、これより通学を開始します」
昨晩の事件があり、非常措置としての集団登校が行われていた。
初等部、中等部は当然として、高等部ですらも一部を除いて、保安部の先導で集団登校を余儀なくされる。
「……やっぱり、昨日のあれを警戒して、かな?」
「間違いなくそうだろ? 朔夜会とやらに、突発的な大規模騒動が可能である以上は、今これ以上できる事なんてないだろ」
「……そうだね」
「心配しなくたって、デカブツならカグツチがいるし、俺だってそこらの奴に負けやしない――宇佐美は俺が守ってやるさ」
「……それ、今までに一体何回言ったの?」
「――えーっと……」
「問いかけといてこんな事言うのもなんだけど、悩まないで!」
保安部訓練参加者は、自分の身は自分で守れる為に非常外出制限を受ける事がなく、こういう非常事態でも自由行動が許可されている。
故に裕樹は、集団登校に参加しなくても良いし、その護衛対象の宇佐美も裕樹の保護下と言う条件で、その対象外として扱われており――。
「では、D-Phoneの提示をお願いします」
「――顔パスじゃダメ?」
「ダメです。規則なので、提示して頂けない場合は……」
「わかってるよ。はい」
「――はい、確認いたしました。どうぞ」
非常警戒態勢による交通規制も、通過が許可される。
通過してからも、歩道には保安部が武装して見回りをしているし、巡回用のバイクだって何台もすれ違っている。
「厳重ね」
「仕方ないさ。保安部って言ったって、宇佐美が昨日見た武闘派ばっかりって訳じゃないんだ。道案内や交通整理を担当する部署だってあるし、200万人以上いるこの学園都市であの規模の対処するには、総動員しかないからな」
「……そうよね。あんなどう考えても普通通り越した訓練を耐えられる人なんて、そうそういる訳ないよね――あっ、そうだ。光一はどうしたの?」
「あいつなら寮の部屋で、昨日のデータの解析やってる。帰ってからずっとみたいだし、保安部からの依頼って事で特例が適用されるから、今日の授業は休みだってよ」
「歩美ちゃんは?」
「あの子は中等部だからね。今は友達と一緒に、集団登校の一員……ん?」
信号機待ちで、退屈を紛らわす為に宇佐美と会話を交わす中――裕樹はふと、周囲を見回し始めた。
「? どうしたの?」
「いや……なんでも、ない?」
「? ……あっ、信号!」
「っと」
裕樹は首をかしげつつ、バイクを転がし一路学校へ。
その様子を、小さなビルの屋上から、双眼鏡で見つめる者が1人
「へえっ、ちゃんと仕事してるようだね。感心感心」
『……感心してる場合じゃないと思うけど?』
「感心してる場合だよ――弱い者いじめの為に、なんでこんな大げさな事しなきゃならないのさ?」
『じゃあ、どうするのさ? その感心してる場合だって考えてるなら』
「ん? どうするのさって、そんなの気まぐれに決まってるさ」
『……はい?』
「気まぐれだよ、気・ま・ぐ・れ」




