第3章 第5節
『ミュ~♪ ミュミュ~♪』
「ううんっ……おはよ、ユラ」
『ミュ♪』
一条宇佐美の朝は、午前5時起床から始まる。
透き通る空色の毛並みの、線が細くて整った綺麗なフォルムを持つ、宇佐美の電子召喚獣ユラは、その鳴き声で安らぎを与える“癒歌”を能力としており、気持ちのいい目覚めを果たした宇佐美は――。
『グル!』
「おはよ、カグツチ」
電子召喚獣は、D-Phoneを媒介に具現化する為、現在は宇佐美のD-Phoneを媒介に、裕樹がいない間の護衛を受け持ってくれるカグツチに挨拶をして、洗面所へと駆けこんで朝の身支度。
朝のランニング、発声練習を日課としている彼女は、トレーニングウェアに着替えると、一路外へ――。
ブーーーーッ!
「――あれ?」
出ようとしたが、玄関のロックでエラーが発生した。
何事かと思い、宇佐美はロック解除の為取り出したD-Phoneを操作し――。
「――外出制限令? ……あっ、そっか」
昨日の晩起きた騒動を思い出し、落胆。
「……仕方ないか」
仕方がないと割り切って、雨天時のメニューを行い……。
『……グルッ?』
『……ミュウ』
「別に貴方達が食べる訳じゃないんだから、そんな顔しないで!」
朝食は、宇佐美は料理がヘタな為、基本的にはトーストと牛乳。
一応は自分で作ろうとしても、焦げていたり形がぐちゃぐちゃだったりで――本日は、焦げたスクランブルエッグと、ゆでたウインナー。
『……グルッ』
『――ミュウ』
「そんな同情する様な眼で見ないで! ……どうせあたしは、焼いたりゆでたりとかの、簡単な事しか出来ないよ」
とぼとぼと、冷蔵庫からパンに塗るジャム、そして飲み物としてオレンジジュースと、ケチャップを取り出す。
本人としては、体型の維持や体調管理まで、自分で出来る様になるのが理想なのだが……いかんせん、致命的なまでに宇佐美には料理の才能がなかった。
『ミュッ! ミュ~!』
食器を流しに入れ、シャワーを浴び終えたその時に、ユラが何かを伝えるかの様に鳴き声を上げ始めた。
「えっ、もうこんな時間? いけない、すぐ準備しなきゃ!」
髪を乾かし、本日はポニーテールにしてから制服を着てと、身支度を整え――
「あっ、もしもしユウ。今もう来てるの? わかった、すぐ行く」
タイミング良くかかってきた裕樹からの連絡に頷いて、宇佐美は登校時間になってようやくロックを解除された玄関を出て――。
「おはようございます、一条さん。朝霧君なら、もう来てますよ?」
「おはようございます。すみません、無理言って」
「良いですよ、一条さんの事情はわかってますから。それでは、保安部には私から連絡しておきますからね」
「ありがとうございます。では、行ってきます」
その途中で会った寮監に挨拶をして、一路外へ。
「よっ」
「おはよ」
外でバイクから降りて、缶コーヒーを飲んでた裕樹が宇佐美の姿を見つけると、ヘルメットを手に挨拶し、それお手渡す。
裕樹がヘルメットを被り直してバイクに跨り、後ろに宇佐美が座って裕樹の腰に手をまわすと――
「あたし、バイク通学クセになっちゃったかな?」
「宇佐美も免許取ったら? どうせだし、一緒にツーリング行こうよ」
「へえっ……うん、考えとく。でもデートのお誘いだなんて、ユウにしては頑張った方じゃない?」
「え? …………あっ、ああっ、そうだなうん。一条宇佐美とデートが出来るだなんて」
「……はいはい、今の間と疑問符は聞かなかった事にしとくね」
「――ごめん」




