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第3章 第3節

「さてと……しっかり捕まってるよ、宇佐美」

「うっ、うん……」

 両手が使えなくなるお姫様だっこをやめ、裕樹は宇佐美をおんぶしながら、両手に剣を構える。

 背に当たる柔らかな重みに、裕樹は多少動揺しつつも表情を引き締め、剣を握りしめて対峙する黒いバッファローを見据える。

「あのさ、大丈夫なの?」

「心配すんな。朝霧裕樹の名に掛けて、宇佐美の事はちゃんと守るさ――宇佐美はしっかり捕まることだけ考えてろ」

「うっ、うん……!」

『ブルル……ブモーっ!』

 バッファローが突進し、裕樹は刀を構え――

『ブモっ!!?』

「え?」

 宇佐美が瞬きする間に、バッファローの両前足が撃ち抜かれ、角が2本とも斬り落とされ――。

 その次の瞬間には、バッファローの首がずるりとズレ落ち――ガラスが割れる様な音がなると同時に、光の粒子となって拡散して行った。

「すごい……って、良いの? あれ、確か捕まえるって……」

「今は宇佐美の安全第一。それを考慮すりゃ、仕方ないさ――ま、あっちの黒竜の方はカグツチが捕まえるだろうけどね」

 ふと宇佐美が見てみれば、確かにあっちも圧勝だった。

 地面に這いつくばる黒竜を、カグツチが馬乗りとなって、マウントポジションで取り押さえていて、完全にパワーで負けてる黒竜はじたばたと暴れるが、カグツチはびくともしない。

「光一、あっちだけでも問題ないだろ?」

「ん、まあな――さて、シラヒメ。念入りに解析するぞ、フルパワーで頼む」

『ワンっ! ワンっ!』

 カグツチが取り押さえる黒竜に、真っ白な子柴犬シラヒメが張り付いた。


「B-05号沈黙、討伐者、朝霧裕樹。A-02号、捕縛、捕縛者、朝霧裕樹所有電子召喚獣カグツチ――やっぱり、腕ききが相手じゃ役不足なのは否めないか」

 そこから遠く離れた地点――とあるビルの屋上にて。

 1人の男が、D-Phoneを広げた様なタブレットを抱え、操作しながらデータを纏めつつ、あちこちで起こる喧騒を見下ろしていた。

 違法召喚獣の咆哮、保安部員の鬨の掛け声――そして、救急車のサイレン。

「……まあ、それ位じゃなきゃ、データ集めに意味も価値もないけどね」

 それらを意にも介さず、その男はタブレット操作の手を止めない。

『……ねえパパー』

 操作の手が止まったと同時に、タブレットから電子的な声が響く。

『僕が出ちゃダメなの? 僕が出れば、パパも……』

「まだダメ。事は順序良くじゃないと――それに」

 男は笑み――温か味のあるにこやか物ではなく、見た者に怖気を与える様な冷やかな――を浮かべ、底冷えするかの様な低い声を紡ぐ。

「――僕の憎しみはね、この程度じゃあ全然晴れやしないし、この学園都市に絶望を望んでる訳じゃないんだ」

『ふーん。よくわかんないなー』

「それより、ジャミングが完璧じゃない状態で出ちゃダメだって、何度も言ってるだろ?」

『……はーい』

 会話が終わるとタブレットの画面を閉じて、D―Phoneを取り出し――

「ああもしもし? 僕です」

『おおっ、随分と派手にやってくれている様だな? 期待以上で何よりだ』

「まあ僕も、クーデターだって立派な戦いなんだから、デモンストレーションは派手にやった方がいい、とは思ってますが――」

 そこで男は会話を止め、すっと目を細める。

「……随分と負傷者も出てる様ですけど?」

『現執行部の政権に収まっていると言うなら、無関係と言う事はない』

「――確かに、迷惑だの自分には関係ないだの、そんな事を平然と言える奴ほど、他人を見捨てる事を至極当然に思う、身勝手極まりない外道ですからね」

『そうだ、それが良くわかっているからこそ、君を引き入れたのだ――では、今回得たデータに関する研究資金は、引き続き例の口座に振り込んでおこう。次も期待している』

「ええ、任せて下さい」

 D-Phoneの通話をオフにし――

「――夢が覚める時間を、少し伸ばす位にはね」

 軽蔑を込めて、そう言い捨てた。

『恐ろしい発言だね、パパ。情の欠片もないとは、まさにこの事だよ』

「情? ――人の情はね、常に自分と同じ立ち位置に居る者にのみ、向けられるものさ」

『そんな物なの?』

「そんな物なの――堕ちた人間は、決して救われる事がないようにね」


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