第2章 第10節
「――ああ、お久しぶり。元気そうで何よりだよ」
怜奈の言葉に少々眼をそらして、気まずそうに裕樹はそう返した。
「――知り合いなの?」
「ちょっとな」
「――どうしても受けて頂けませんか?」
「何度も言ったろ? 専属では受けないって。俺みたいなのと一緒に居る事自体、ろくな事じゃないんだから」
「しかしそれでは……」
「何をしている!?」
流れが言い合いの用になり始める所で、それをせき止める怒声。
「――北郷か」
「――朝霧? それに、水鏡財閥の……!」
「ちょっと昔話だよ」
「――成程な。それなら明日にしておけ。もうすぐ、高等学校生移動制限がかかる時間だ。夜間移動の許可の出ていない生徒がこんな所に居るのは、保安部として見過ごす訳にはいかんからな」
学園都市では、生活サイクルこそ異なっていても、住む人間は未成年者が大半を占める為に、各施設や道路などには移動制限が設けられている。
これは主に、未成年者の夜遊び防止のための措置で、D-Phoneに登録された生徒データを照合し、移動制限対象年齢だった場合、即座に保安部に情報が通達され、補導されるか後日処罰書状持ちの来訪という仕組み。
「って、もうそんな時間かよ!? ――宇佐美、急ごう!」
「え? あっ、ちょっと!」
「おっ、おい! 俺を置いてくなよ!!」
時計を見て好都合と言わんばかりに、宇佐美の手を取って裕樹は急ぐようにその場を後にし、光一も慌ててその後を追っていく。
「――今回もダメでしたね」
「――そう、ですね」
「お2人も、人を待たせているのでしょう? 幾ら大人の送迎があるとはいえ、早くお帰りになられた方がいい」
「あっ、はい。お手数を……」
「では、失礼します」
怜奈と蓮華も、今回は仕方がないと諦め、車を待たせてある場所へと向かっていく。
「やれやれ……」
1人残された正輝は、裕樹達、そして怜奈達が去って行った方向を交互に見て――
「――人の間柄と言うのは、難しい物だな」
そう呟いた。
ヴィーッ! ヴィーッ!
「――我だ、どうした? ……何? どういう事だ?……ああっ、わかった。すぐに行く」
「――何があったの?」
所変わり、夜の車道。
裕樹の運転するバイクに、後ろ座席に座って裕樹の腰に手を回す宇佐美が、信号での足止めを喰らった時、そう問いかけた。
「何が?」
「水鏡のお嬢様と。あの雰囲気、絶対何かあったよね?
「つまらん話だよ。こういう稼業やってると、恨みつらみなんて幾らでもあるんだから」
「勝ち負けが絡むと、絶対にそうなるのはどこも変わらないね」
「そういう……」
ボォンっ!!
「――!? なんだ!?」
「――! あれ!!」
宇佐美が指さした先――そこには
『ギシャアァァァアァアアアア!』
象位の大きさの、全員が真っ黒で、禍々しい様相の4足歩行型の竜が、ノイズが走る様に輪郭をぶれさせながら、暴れていた。
「……違法仕様の電子召喚獣か。しかも、随分と育てられてる」
電子召喚獣の本体はあくまでデジタルデータであって、設定すれば大型にも小型にも具現化させる事が出来るが、人を傷つける事や物を破壊する事は出来ない――あくまで、通常使用の状態での範疇であれば。
その範疇を破り、コンピュータウィルスを媒介とし、凶暴な兵器として悪用する術を確立しようとする動きは存在しており、学園都市ではその実験の意味合いでその技術を使っての犯罪が存在する。
『ギッ!』
その黒い竜が、ふと裕樹達――宇佐美を見て、動きを止める。
『ギシャアアアアアアッ!』
咆哮をあげ、黒い竜は宇佐美達めがけて突進し――
『グルッァァアアアアッ!』
『ギシャア!?』
「よし、抑えこめカグツチ。そんなのに負けるほどヤワじゃあねえだろ?」
「……すごい」
その間に姿を現した、カグツチによって受け止められた。
「光一」
「ん、了解――シラヒメ。あの黒竜のスキャン頼む」
『ワンっ! ワンっ!』




