第2章 第9節
「……大丈夫光一?」
「……げふっ」
一番最後になってまで漸く食べ終わった物の、明らかに食べ過ぎで苦しそうな光一に、裕樹が肩を貸しつつ、心配する宇佐美と共に、バイクを置いてある駐輪場へと向かっていた。
「――それにしても、よく食べ切れたね?」
「いや、俺だってキツイよ。正直な話、今あんま動きたくない」
「……そうね、うん」
よく見れば、裕樹も身体が重そうだった事に気付き、宇佐美はほっとする。
「――なんでほっとする?」
「なんかユウも人間なんだって」
「人をバケモノみたいに言うのやめろよ」
「ごめんごめん」
「――ったく、居心地悪いねえ」
ぼそりと呟いた光一のぼやきは、幸いか2人の耳には届かなかった。
「あの」
そんな中で、1人の線の細い男性――否、男子生徒の制服を身にまとった少女、黛蓮華が裕樹に声をかける、
「なんだよ? ――あの話なら、今は依頼を請け負ってるから」
「その点については謝罪しますし、それを聞いて安心しました。腕はあっても仕事に対する姿勢が悪ければ、貴方を雇う価値などありませんから」
「そりゃどうも」
ある程度持ち直したのか、裕樹から離れた光一に、宇佐美がそっと問いかける。
「誰?」
「黛蓮華。水鏡グループのSP見習いだよ」
「水鏡グループ!? あの世界有数の?」
「そう、その水鏡グループ。更に言えば、そこの総帥の御令嬢、水鏡怜奈のお付き」
「――そんな人にスカウトされてるの?」
「スカウトって言っても、専属だったら俺は受ける気ないよ。今だけじゃなくて、これからもな」
2人の会話に割り込むように裕樹がそう告げ、その言葉に蓮華も流石にむっとした表情を隠せなかった。
「不満があるならおっしゃってくださいと、何度も言った筈ですが?」
「そうじゃない。俺みたいなのは、長く傍に置いとくモンじゃないんだよ。特に、お偉いさんの御令嬢ともなればな」
「……貴方はいつもそうですね?」
「そうじゃなけりゃ、俺は用心棒なんてやってないさ。生活苦しいけど、それなりに楽しくやれてるしね」
「でしたら、なぜ専属を受けていただけないのか--その訳を教えてはいただけませんか?」
会話に割り込んできた、柔らかな声に蓮華はぎょっと目を見開く。
「お嬢様!」
「――ごめんなさい、蓮華ちゃん。ただ、お話をするからにはワタクシ自身が出向かなければ、失礼でしょう?」
腰まである髪をリボンで纏め、育ちの良さと落ちついた雰囲気を醸し出し、大きな垂れ目の自然でありながら理想的に整った顔立ち――水鏡グループ総帥令嬢にして、学園都市随一の美貌と称される、水鏡怜奈その人。
「お久しぶりです、朝霧さん」




