第2章 第8節
訓練、と言っても一括りにと言う訳ではない。
そもそも保安部自体、警察や消防署などの役割も持っている為、共同で行う基礎訓練が終われば、用心棒やSPと言った職の生徒や、主に取り締まり方面の保安部員が主体となる訓練と、レスキュー方面の保安部員を主体とする訓練に。
レスキュー方面は、ここからは保安部付きの医師志望の生徒も加わり、主に連携を重視しての訓練が行われる。
医療に関しては、この学園都市においては病院と診療所があり、主に命に関わらないケガや病気等を担当する、医師志望の生徒が運営する診療所と、重傷や重病を担当する、大人の医者により運営されている病院が存在する。
勿論、保安部にも大人の専属医師は居る為、生徒のやる事はその補佐と応急処置がメインとなる。
「はあっ!」
「うおらっ!」
その一方で、主に取り締まり方面の訓練はと言うと、戦闘訓練がメインとなる
主に、イベントにおける乱闘騒ぎに暴徒の鎮圧、商売上でのいざこざによるケンカの仲裁――等、主に身体を張る事が多い為、1人1人の質も要求される。
保安部に所属出来るのは高等部からとなる為、2年になる頃には生半可では相手にならない精鋭に仕上がる――とまで言われている。
「どうしたあっ! もう終わりか!!?」
そして、そんな精鋭をまとめ上げる人物もまた、精鋭中の精鋭と言える強さも求められ――まるで岩の様な体躯の保安部長官、北郷正輝はその条件を満たしていた。
武器も何も持たない、拳だけで相対するその男の周囲を、少なく見積もっても10人以上は取り囲み、その足元には既に数名が倒れている。
「下がってろ。おいどけって、尻込みする位なら引っこんでろよ」
その人垣を掻き分けて、1人の男子生徒――朝霧裕樹が、正輝に相対する。
「――なんだ、珍しい事もある物だな?」
「ちっと雇い主様に良い所見せようと思ってな」
「雇い――ああっ、一条の妹か。やれやれ、これで何人目だ?」
「その表現やめろよ! 大体何人目ってなんだよ、何人目って!」
「――まあいい。お前ならば相手にとって不足はない」
鉄柱をサンドバッグ代わりに使っている――そう噂されている拳を握りしめ、ざっと踏み込み、構えを取る正輝に対し、二刀流で左の刀を前に構え、右の刀を突きの形に取った構えの裕樹が相対する。
その周囲は既に距離を取って、それぞれがその相対を固唾を飲み見つめていた。
「――行くぞ!」
「来い!!」
裕樹と正輝が同時に駆けだし、拳と剣が――交差した
「あっちはあっちで、盛り上がってんなあ」
「余所見する暇があるのですか?」
「っと」
その一方で、光一は二丁拳銃を構え――1人の女子生徒と相対していた。
背中までかかる髪をおさげにし、すらりとし鍛えられた機能美を兼ね備えたスレンダーな体躯をもつ、中性的な顔立ちの女性、黛蓮華と。
裕樹と正輝の相対に目を向けている隙を狙い、蓮華は持っていたメイスを振るうも、光一はそれを身体を捻って回避し、その動きと連結させるように銃を蓮華の眼前に突きつけ、引き金を引く。
弾は倒れ込む様にして避けられ、その勢いを利用して身体を回して、光一の足を払って、バランスを崩した光一の腕を取って、腕ひしぎの体勢に入ろうとしたと同時に、光一はとられていない手で、蓮華の手を撃って怯んだその隙に腕を抜いて、距離を取る。
D-Phoneから実体化した武器は、主に鎮圧や護身目的の物の為、相手にけがをさせない設定が存在する。
「――流石、水鏡財閥御令嬢のSPやってるだけのことあるな」
「まだまだ、ですよ」
ビ――っ!
「よし、そこまでだ! よし、各自ストレッチをしたら食堂へ集合!」
担当教師の宣言により、それぞれが訓練を止め、ストレッチを始める。
その中に――
「――お疲れ」
宇佐美が2人に飲み物とタオルを差し出す。
「ああ、ありがと」
「――ああ」
「? どうしたの光一? もう訓練終わったのに、げんなりとしてるけど」
「いや、俺にとっての訓練はな――まだ終わってないんだよ」
「終わってないって……だって、この後はご飯なんでしょ?」
「いや、それはな……」
--所変わって食堂。
食欲をそそる匂い、テーブルに並ぶ食事。
「「…………」」
この授業の利点(?)は、訓練後に食事が支給される事だが……。
光一はげんなりと、宇佐美は呆気にとられて、全員の食卓に並べられている食事を見つめていた。
本日の食事は洋食テイストで、メインであるハンバーグに、副菜の海老フライがあって、サラダにスープに、ご飯が並べられている。
それだけを聞けば普通だが、宇佐美が呆気にとられているのは……
「この量何!? ハンバーグがキングサイズ通り越した、見た事無いサイズなのもそうだけど、全部量がすごくない!? ご飯が昔話盛りのドンブリって初めて見るよ!?」
「食うのもトレーニングなんだと。残したら食事代は自費負担になるペナルティつき」
「――よく食べれるね?」
「訓練きついから、その分腹減るからね」
「……あっそ」
呆れたようにそう返し--
「……うぷっ……ぐっ、がふっ……」
「……お肉つけるって意味じゃ、光一には必要……なのかな?」
無理やりかき込んでる光一の姿に、宇佐美もさすがに苦笑いだった。
「--せめて、この量がちょっとでも女性らしい部分に」
「ん? 何か言ったか黛?」
「いえ、なんでもありません! --北郷さん」




