第2章 第6節
屋台通りと言う場所がある。
主に通常サイクルの生活を送る、選択授業あるいは部活動、サークル活動を終えた生徒を対象に、食べ物の路上販売が連なる場所。
本格的に学びたい場合、その方面の授業を取ればいいこの都市では、文化系はサークル活動、運動系は部活動として分けられており、サークル活動は主に趣味の色合いが強い物となっている。
勿論、軽く扱われていると言う訳ではなく、例えば天文学の場合には観測会は共同で行われる等、色々と互いに便宜を図る協力関係が築かれている。
「はい、いらっしゃいいらっしゃい! ケバブはいかがですか!?」
「満腹と言えば、焼きおにぎりだ! 腹膨らませるんなら、やっぱ米じゃないと!」
「焼きそば出来あがりました! 今なら焼き立てが食べれるよ!!」
「はいはい、そこの可愛いお姉ちゃん! ベビーカステラはいかがかな!?」
これも、調理方面志望、あるいはサークル活動での学生たちにより、場所取りに準備、販売に調理と、様々な業務を経て出展されている。
時折珍しい物からゲテモノ系、あるいは新作の試食等も並ぶ事があり、ここでの食べ歩きを日課としている生徒も、少なくはない。
「いらっしゃいませ、どちらになさいますか?」
「じゃあチョコバナナでお願い」
「かしこまりました」
その内の1つの屋台で、クレープを売っている2人――久遠光一と、朝倉歩美。
光一がクレープを焼いて、焼き上がったそれに歩美がトッピングを施し――
「はい、350円です」
「ありがと」
屋台街ではそこそこに人気を持つ店として、名が売れている。
光一もそれなりに屋台稼業は楽しんではいるし、歩美はパティシエを目指していて、調理方面で優秀な成績を収めていることから、特例として屋台営業を許可されている実力者。
『キューン、キューン』
『グルルルルルッ!』
「ああ、ありがとなシラヒメ。朝倉、お釣りとトッピングの補充来たぞ」
「ありがとうございます。ありがと、シラヒメ、コクテイ」
白い毛並みにメガネが特徴的な、子犬位の柴犬型電子召喚獣シラヒメが咥えた小銭の束を受け取り、黒い毛並みに威圧的な風貌の、痩せた狼型電子召喚獣コクテイが咥えたクーラーボックスから、トッピングを幾つか取り出し、歩美は接客に戻る。
電子召喚獣は基本1人につき1体だが、ごく稀に2体一対仕様となる場合もあり、シラヒメとコクテイは2体とも光一の電子召喚獣である。
電子召喚獣の外見は、所持者の経験に実績をデータとして記録し、それを作用させる事で変化する特性を持つが、2体1対の場合は情報が二分されて影響する為に、振り分ける情報次第で全く同じ姿の場合もあれば、全く異なる姿の場合もある。
光一の場合は、2体の役割を決めて振り分ける情報を分別している為、2体とも全く異なる風貌となっている。
『キューン、キューン』
『グルルルルっ』
子犬位の白い柴犬シラヒメが、甘える様に黒い痩せた狼コクテイにすり寄り、コクテイもその場に座って、シラヒメを毛づくろいでもするかのように、ぺろぺろと舐め始めた。
2体は元々1つであり、人間で言う双子の様な物だけに、外見こそかけ離れていても仲は良い。
「――いつ見ても和むよなあ」
「――うん。黒い方は、外見が怖いけどな」
「でもさ、甘えられて悪い気はしないって感じだし、これはこれで和むでしょ」
お店の後ろで、親子みたいなやりとりをするシラヒメとコクテイも、ある意味名物となっていた。
「――良いなあ。私のセレネも、早く成長して欲しい」
電子召喚獣が異なる姿を取り始めるのは、主に高等部に入ってから。
初等部や中等部も電子召喚獣は持ってはいるものの、その時点ではまだ小動物の姿がメインとなっており、コミュニケーションもつたない、発展途上の状態となっている。
歩美のセレネも、歩美の肩に止まる程度の小さな小鳥で、愛玩用やサポート用としては、日常生活において不便はない物の、個性まではない。。
それ故に、確立した自我と個性を持っているシラヒメとコクテイを、羨ましく思っていた。
「あっ、そろそろ時間では?」
「え? あっ、そっか。申し訳ありませんが、こちらの方の御注文をラストオーダーとさせていただきます!」




