第2章 第5節
授業によっては、男子禁制女子禁制、部外者立ち入り禁止――な物もあれば、見学自体は何の問題もなく出来る授業もある。
「はい、授業はここまでです」
教師が終わりを告げると同時に――
「あの、ちょっと良いかな? 仕事の依頼なんだけど」
「僕の作品がアニメになるって決まったんだけど、是非君にOPを歌って欲しいんだ」
「このイベントの主題歌のイメージに、君がぴったりなんだ。是非頼むよ」
見学者――と言うより、学園都市のTV関連、漫画にラノベの作者、イベント公演の実行委員等など、仕事のスカウトが我先にと、受講者に声をかける。
彼らもまた、その方面を専攻する学園都市の生徒であり、仕事という都合上からどうしても1人は確約を貰わねばならない上に、スカウト対象達も彼らの持ってくる仕事をこなさねば、生活もままならない上に飛躍も出来ない。
「宇佐美ちゃん、番組出演を頼みたいんだ」
「是非俺の作品アニメの主題歌を」
「このキャンペーンで、君を起用させてくれ」
当然、実績のある人物には仕事の依頼はひっきりなしに来るし、スカウト側も好条件を手土産に話を持ちかけてくる。
それもスケジュールに合えば、スムーズに進むが――
「是非、この仕事をぐあっ!」
「クズスカウトはすっこんでろ! この企画に宇佐美ちゃんは不可欠なんだ!!」
「何が企画だ! チンピラの集会じゃないんだぞ!!」
「ちょっ、ちょっと!」
「――宇佐美ちゃん、今のうちに」
「おいテメエ! 何抜け駆けしようとしてやがる!?」
「いい度胸だ! ぶっ殺してやる!!」
――時には話がこじれ、乱闘騒ぎになる事も珍しくはない。
「はい、そこまで!」
取っ組み合いをしていた2人を引き剥がし、抜け駆けしようとした1人を踏みつけて、裕樹がそのケンカに割り込み、力尽くで止める。
「なんだテメ……げっ!」
「ったく、何やってんだよお前ら?」
「いっ、いやあ、その……」
「まずは落ち着け乱闘なんてしたら、宇佐美勧誘できても仕事自体が台無しになる、位理解してない訳じゃないだろ?」
「――はい」
「……申し訳ありません。とんだご迷惑を」
――学園都市での仕事は、実習の意味合いも兼ね備えている。
例えば、裕樹達が昼食を食べたソバ屋――そこで働いているのは、調理方面志望の学生であり、午前の間に仕込みや店の準備等を行う――これらの働きは仕事としてだけではなく、実習として考慮され、成績につながっている。
話に戻るが、勿論彼等が必死になるのも、一条宇佐美と言う優秀な人材のスカウトに成功したと言う、好成績につながる事実と、失敗によるケチがつく要素を避けたいが為である。
「もうっ、ケンカしなくたって、話ならちゃんと聞きますから」
「――いえ、流石に今回はやめておきます」
「――頭に血が上っていたとはいえ、あんな事しておいてこんなこと頼めません」
「――流石に恥をさらしちゃあ、仲間に申し訳がないですから」
「……そう、ですか。でも、あまりお気になさらないでくださいね? 話なら礼儀を守ってくれるのなら、ちゃんと聞きますから」
「……ありがとう、ございます」
3人が頭を下げ、踵を返すと――。
「「「…………」」」
スカウトにあぶれた数名が、3人に目を向けていた。
「――さて、次は?」
「ん? 今日はもうおしまい――帰ろっか」
「ん、了解」
その場を後にし、裕樹は宇佐美にヘルメットを渡して、一路駐輪場に停めてある裕樹のバイクへと歩を進める。
「――ちょっと気になったんだけど、ユウは授業何とってるの?」
「ん? 俺はこれからあるよ。だから宇佐美を送った後――」
「見学して良いかな?」
「――良いけど、面白みなんてないぞ? 受講してるの強面ばっかだし、女子(?)は少ないし」
「――ねえ、女子(?)って何? 女子(?)って。すごく気になるんだけど」
「だから、女子(?)だって」
「――なんだろ? この純粋な興味から、怖いもの見たさにすり替わった様な……?」




