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第2章 第4節

「はい、そこで回って!」

 所変わり、宇佐美の履修科目の実習場、ダンスホールにて。

 宇佐美を始めとして、何人もの芸能方面志望の女子生徒が、教師の合いの手のリズム、指示に合わせて身体を動かす。

 そして、その様子を――

『グルルルッ……』

 セントバーナード犬位の大きさの、デフォルメされた紅い小竜、カグツチが宇佐美のカバンを背に乗せ、見つめていた。


 DIEシステム。

 “Digitaldateデジタルデータを Incarnete(具現し) Embody(使役する)”

 この学園都市で試験運用されている、デジタルデータの実体化技術であり、カグツチはその技術によって、D-Phoneを媒体にし、搭載された制御AIによって知能を得た、実体を持つプログラムである。

 D-Phoneの持ち主の実体験――履修した科目、こなした仕事の履歴、開催されたイベントでの実績、これらをデータとして蓄積することでその姿を変え、媒体としたプログラムによって能力を変える性質を持つそれは、“電子召喚獣”と呼ばれている。

 電子召喚獣はスケジュール管理にあらゆる分野でのサポート、護身用に生活補助用、そして愛玩用と幅広い使用用途を持ち、学園都市の生活には欠かせない物である。

 現在カグツチは、セキュリティプログラムを媒体に召喚されており、役目は一条宇佐美の護衛――防御を主軸に据えたプログラムとして、機能している。

 後これは余談だが、この学園都市の保安部や用心棒と言った職種が持つ武装、例えば朝霧裕樹の刀などは、全てこの技術で具現化したプログラムであり、致死、致傷は与えられないようになっている。


「はい、今日の授業はこれまで」

 教師がそう告げると、汗を拭いたり、飲み物を飲んだりと、思い思いに行動し始める。

『グルルル』

「あ、ありがと。貴方の主人も、これ位気が利くといいんだけど」

『ガウっ! ガウガウッ!』

「あ、怒った? ――ごめんね、馬鹿にした訳じゃないんだけど。あと、ちょっと待ってくれないかな? ストレッチは、念入りにやっておきたいから」

 その中で、ストレッチを行っているユサミに、カグツチが宇佐美のカバンを背に乗せて、ふわふわと浮く様に身体を寄せる。

「――見せつけてるつもりかしらね?」

「――あれって確か、朝霧裕樹の電子召喚獣じゃない。もうボディガード付きだなんて、何様のつもりなんだか?」

「――どうせ自意識過剰か何かよ。そんな事に使えるほどに金が有り余ってるなんて、流石に上位入賞者は違うわね」

 ――上位入賞者に得られるのは名声と、それと同じ位の妬みも集まる。

 その性質上から、用心棒と言う仕事が成り立っている側面も持っており、決して腕自慢と言うだけでは生業に出来ない厳しさも持っている。

「――行こうか」

『ガウッ!』

 そう言ってその場を後にし、シャワールームで汗を流し、更衣室で着替えを済ませて――

「お待たせ」

『ガウッ!』

 ベンチで本を読んでた裕樹に声をかけると、裕樹はゆっくりと立ち、その背にカグツチがしがみつき、肩に顎を乗せる。

「良いよ別に。女の身支度に時間がかかるなんて、いつもの事なんだから」

「流石に、女性ばっかり護衛してるだけの事はあるね」

「ばっかりって訳じゃないんだがな……まあ比率で言えば高いけどさ」

「それで何でデリカシーがないかな? 致命的なまでに」

「うるさいよ。で、次は?」

「歌唱よ」

「んじゃ、同伴許可取らないと……カグツチ」

『グルル――ガウッ!』

 カグツチがD-Phoneの画面に触れ、光が拡散する様に姿を消すと、裕樹はD-Phoneを操作し、同伴許可を取り始める。

「……カグツチみたいには行かない物だね。ユラ」

『ミュウ……』

「ううん、ユラの所為じゃないよ。あたしがまだまだ、何もしてないだけだから」

 自身のD-Phoneを取り出し、画面に戻っていくカグツチを見送りながら、自身の電子召喚獣ユラに画面越しにそっと声を掛ける。


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