プロローグ
人口約210万人。
湾岸に沿う様に発展した臨海都市であるそこは、住民の大半が10代の学園都市。
「はいいらっしゃいいらっしゃい! たいやきはいかが!?」
「ジュース一杯100円! ジュース一杯100円だよ!」
その街の特徴は、高等学校生以上の学生による自治と競争。
街の湾岸から伸びる鉄橋の先に位置する、住人全てを収容してなお余裕がある、巨大なスタジアム。
都市のシンボルであるそこでは、都市の全校朝礼を始めとしての様々な催し--全校の部活動の試合であったり、音楽の演奏会や美術の発表会などが行われる。
勿論、重要な役割を決める際も同様で、この都市で肩書を持つ生徒は、相応の修羅場をくぐり抜けてきた猛者である証明。
「今の列で最後だ! 商売組は店をたたみ、スタジアムへ急ぐように!!」
それ以外の事柄でも、生徒はそれぞれ職業を持っている。
それぞれ店を持っていたり、その従業員だったりと、自給自足は当たり前。
催しとなると、屋台を開いての商売に勤しむのも、この都市の特徴である。
「先輩、片付け終わりました?」
「ああっ、悪いないつもいつも」
「いえ、好きでやってる事なので」
その屋台の行列の中の1つ、タイ焼き屋の屋台の片づけをしている2人組
1人は男子生徒で、少し長めの髪を無造作に整え、それなりに整った顔立ちだが、身体は細くもやしという表現が合う様なひ弱な体躯の少年、久遠光一。
もう1人は女子生徒で、お尻までかかるほど長い髪をポニーテールにし、保護欲を駆りたてる小動物チックな雰囲気を似合う、小柄ではあるが出る所はボリュームたっぷりに出てる少女、朝倉歩美。
光一がクーラーボックスから飲み物を取り出し、歩美に手渡すその姿は、傍から見れば兄妹に見える雰囲気で……。
「……さて、行くか」
「はい」
片づけを終えた屋台から離れ、他の露天商組の流れに従って歩を進める。
「今日はなんだっけ?」
「なんだっけって、今日は音楽祭ですよ? 宇佐美さんが出てるの忘れたんですか?」
「え? ……あっ、そうだった!」
「そうだった、じゃないですよ! もうっ……」
「って事は……だよな」
「ええ。次のお仕事、頑張ってください」
「――へいへい」