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外に出ると、既に日が昇っており、雲一つない青空が洋の視界に入った。
家を出るときに時計を見たが、まだ時間に余裕がある。が、洋は少し走っていくことにした。
何人かとすれ違い、制服を着ている人もかなりいた。だが、洋と同じ制服を着ている人はいなかった。
5分ほど走り、洋は足を止めた。目の前にあるのは駅だ。カバンを開き、中から定期券が入っているパスケースを取り出し、再び歩き始めた。
改札機にパスケースをかざし、カバンの中にしまいながら歩き出す。
階段を上り、駅のホームで電車を待っている人たちの列に並び、洋は周りを見渡した。だが、ここにも、洋と同じ制服を着ている人はいない。
電光掲示板を見て、ポケットから携帯を取り出す。まだ電車が来る時間より10分ほどある。
洋は携帯をポケットにしまい、反対のポケットからイヤフォンと音楽プレーヤーを取り出した。
イヤフォンを音楽プレーヤーに接続し、耳につけて音楽を再生させる。音楽プレーヤーをポケットの中にしまい、洋は再び周りを見渡した。来た時より若干だが人が増えていたからどうかと思ったが、やはり同じ制服の人はどこにもいない。
洋は誰にも聞こえないくらいに小さくため息をつき、階段の方を見た。
時間が経つにつれ、階段を上がってくる人も増えてきた。あれでは知り合いを見つけることにも一苦労だろう。
しかし、洋は偶然なのか、階段を駆け上がってくる一人の女の子が視界に入った。同時にアナウンスが鳴り始める。
息を整えようと膝に手をつき、下を向いているその女の子は、洋と同じ高校の制服を着ていた。髪は栗色で、肩にかからないくらいの長さだろうか。下を向いているから、顔は見えない。
アナウンスが鳴り終わり、電車が目の前を通り、すこしずつ減速し、やがてドアが列の正面にきたところで止まった。
すると、息を整えていた女の子が、列のことに気づいたのか、顔を上げて各ドアの前の列の長さを見て、絶望していた。おそらく、電車の中で座りたかったのだろう。
洋は、女の子が上げた顔を見て驚いた。なぜ、彼女がここにいるのか。なぜ、自分と同じ制服を着ているのか。
「氷山……さん?」
思わず出てしまったつぶやきを聞き取ったのか、女の子――氷山友海(ひやまゆみ)が洋に気づき、洋と同じように驚いていた。
「鱒渕君!?」
言葉を発すると同時に電車のドアが開きはじめる。それを見ていた友海がハッと我に帰り、洋の目の前までダッシュしてくる。
やがて、洋の目の前で止まり、両手を合わせて肩目を瞑る。
「ごめん。列入れてくれないかな?」
彼女の思わぬ行動に洋はドキドキしていた。それも仕方がない。友海は洋と同じ中学の、同じ水泳部だったが、彼女はクラスや部活どころか、学年、全校の男子生徒が一目ぼれしてしまうほどの美少女なのだ。そんな彼女の顔が、洋の顔の20cm先というかなり近い距離にある。
洋は質問の内容を聞き取れていなかったが、頷いていた。すると、とても嬉しそうな顔をし、満面の笑顔で、
「ありがとう!」
と、洋にお礼を言った。