表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

第一章 完

 トラックは少女の目前まで迫っていた。

 俺は全力で駆け、そしてぎりぎり間一髪間に割り込むことができた。だがあくまでそれだけだった。割り込んだからとどうこう出来る時間などそこにはなかった。

 暴走したトラックは案の定そのまま俺に、少女に接触、することはなかった。逸れたのだ。間一髪というこの距離で。

 暴走したトラックは速度を落とすどころかむしろ加速してこちらに向かってきていた。

 少女はただ呆然と立ち尽くし迫り来るトラックを見つめていた。駆け出すことも身を縮めることもせず、ただただ見つめていた。

 少女を突き飛ばし、あるいは強引に引き寄せることで助けることもできたのかもしれない。間に割り込んだところで何もできることなどないということは百も承知の上だった。

 それでも俺は割り込むことを選んだ。いや、咄嗟的に、本能的に割り込んだ。確信があったのだ。必ず助かる。そういう確信があった。

 割り込んだと同時に俺は迫り来る鉄の塊を睨んだ。実際はただ横目に見ただけなのだが、とにかく睨んだ。

 割り込めたと思ったと否や吹き飛ばされそうなほどの突風が吹き荒れた。あまりの風の強さに目を開けていられなくなり目を閉じた刹那、とてつもない力で巨大なものを粉砕したような物凄い衝撃音が鳴り響いた。

 その轟音の後にしばらくすると風も音も止み、俺は閉じた目を恐る恐る開けた。回りには砂煙がたちこめ起こった現象を理解するのにしばらくの時間がかかった。そして理解した。どういう訳かトラックは直前で進路を変え、少し後方の民家にノンブレーキで突っ込み民家の一角を破壊し止まったのだ。トラックからは異臭と煙が漂い、あまりの衝撃故に車の頭部は潰れているのか、あるいは民家に食い込んでいるのかその形を確認することはできなかった。

 暴走したトラックが引き起こした惨状を眺めていると視線の左下でうずくまっている少女がいることに気付いた。



                *  *  *



 少女が迫り来る鉄の塊を眺めていると、フラッシュバックのように過去の全ての記憶が脳裏に蘇った。過去の楽しかった記憶悲しかった記憶、ああすれば良かった、こうすれば良かったという後悔、やり残した事、コンマ一秒と経たない時間に全ての記憶、後悔や無念が脳裏を過ぎった。

 ああそうか。これが走馬灯か。少女は今の自分の現状を悟った。

 本能的かあるいは故意にか少女はその目を強く閉じた。

 少女が目を閉じたとほぼ同時に突風が少女の回りを駆け巡り、一秒も経っていないコンマ数秒の後に破裂音とも呼べる衝撃音が鳴り響いた。

 少女は思わず耳を塞ぎ身を縮こませた。

 数秒後、しばらくすると突風と轟音が止み、嵐が過ぎ去った後のように何事もなかったかのように無音となった。実際には無音ではないのだが爆風と轟音のすぐそばにいた少女の耳にはまだ余韻が残り全ての音を聞き取ることが困難となっていた。



 少女は震えていた。その震えによって俺は少女が生きているのだと悟った。見た限りでは表立った怪我はなく無傷だった。俺は、ふう。と胸を撫で下ろした。

 そして確認するように少女に向け手を伸ばした。



 少女は震えていた。ただただ無音の世界に身を投じ外界の全てのものから自分をシャットアウトしていた。だがその世界に暖かでやさしげな、この無音の世界に差し伸べられた救いの手とも呼べる声が聞こえてきた。



 そして俺は一言、声をかけた。


 「大丈夫ですか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ