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第一章 03

 物思いに更け空へと向けていた視線を退屈な現実へと目を向ける。

 時間とは時にかくも早く過ぎているものだ。現実から少し目を逸らし思考の世界に浸っていた時間、体感時間としてはものの数分だったが、いつの間にか出席確認は終わり、ふと見た教室の真正面のちょうど真ん中の天井に近い位置に付いている時計は、終わりのチャイムまで残り数分というところまで進んでいた。

 この授業は今日の最後の授業だった。

 まだ残り数分あるというのに気が早い者はすぐにでも帰れるようにもう帰り支度を始めていた。このままなにもしなくても授業はすぐに終わるだろう。だからといっておもしろくもない退屈な授業に耳を傾ける気などなく、この白紙のノートに今更なにかを書こうとも思わない。

 そこでなにもしないぐらいならと他の生徒たちと同じように帰り支度を始めた。少しは時間つぶしになるだろうと、そう思った。

 そしてそうこうしている間に授業は終わり、帰る時間となった。

 「バイバイ。」

 「じゃあまた後でー!」

 生徒たちは友達に向かって別れの挨拶などを交わし学校を後にしていたが、俺は誰とも口を訊かず、誰からも口を訊かれずにすでに用意してあった鞄を手に取り学校を後にした。

 俺が住んでいる町はそんなに大きくはなく、外れにいけばほどよく田んぼなどが残っている。中心のほうにいけばそれなりにビルなどがある田舎とも都会とも呼べない、あえて呼ぶなら田舎の都会のような場所だ。

 家の近くにはスーパーマーケットがある。最近できた、といっても2,3年前だが、少し大きめのショッピングセンターのようなものもある。西側には一階の半分ほどを使ったスーパーマーケットがあり、その真隣にはそれとほぼ同面積の間取りを使った本屋がある。そしてスーパーマーケットと本屋の上に位置するところに巨大な映画館があり、東側に1,2階あわせて合計10店舗ほど店があり、住むのにはなんの不自由もないなんとも住み心地のいい所に俺の家はある。

 対して通っている学校は後ろは山で回りは田んぼしかない。ちらほらと家や小さなスーパーマッケットがあるが、ただそれだけの田舎に俺の学校はある。

 近くの学校に通うことはできたのだがあえてこの学校を選んだ。理由は一つ。『できるだけ自分のことを知らない人がたくさんいるところ』に行きたかった為だ。

 入学した当初は俺のことを知らない人、あるいは気づいていない人たちと話をした。だが一月もあれば俺のことは学校中に知れ渡り、結果、俺のことを知らない者は一人もいなくなった。少し話をした者も今では「おはよう」や「バイバイ」といった簡単な挨拶も交わさなくなった。

 俺はその学校から自転車で1時間弱かけいつものように走り慣れた道を走り家路についた。

 家に着くや否や鞄を置きすぐに着替え家を出た。今様色いまよういろ(赤紫よりも少し暗い色)のズボンに、赤紫色に豚の絵が簡単に線だけで描かれた長Tシャツ、そして紫紺色の首元から赤と白とねずみ色の糸で三つ編に編まれた紐が両サイドに垂れ下がったパーカーを羽織り、いつもなら自転車を使うところをなんとなく歩きで近くのコンビニへと向かった。

 家をでてすぐの角で右前方の自転車や原動付自転車が一台通るのがやっとの幅の細い路地から背丈150半ばぐらいの人影が出てくるのが見えた。だがただ人影が出てきたというだけで何も特別なことなどない、何千、何万と経験していることだ。無視、とは少し違うが何も気にせず目的地であるコンビニへと向かおうとした。

 が、ひどい惨状の汚物を見たかのような、心霊体験でもしたかのような、そんなゾッと背中を小さなな何かが脳天に向かって這い上がる、そんな嫌な予感がした。俺は振り返った。見えたものを信じられないがためにもう一度確認する時のように、振り返った。

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