プロローグ
私は死なない。だからといって不死身ではないし年も取る。最近少ししわが気になってきたぐらいだ。別にそんなに年を取っているとは思わないがそれでも昔のように回りを気にせずに自分の思うがままに生きられる、生きていていい年ではなくなった。きっとこれからもそれなりに年を取り最終的には寿命というもので死ぬのだろう。だから私は不死身ではないし年も取る。だから正確には死なない訳ではない。ただ怪我をせず病気にかからない。というただそれだけのものだ。だがそれでも一部の人、あるいはもしかすると全人類からすれば不死ではないにしろ喉から手が出るほど、全てを省みずにでも得たいものだろう。だが昔からそうだったのかと言うとそうではない。昔は人並みに怪我もしたし、風邪なりインフルエンザなり皆がかかるような病気や生まれつきの病にかかっていたこともあった。そんな普通の人間だった私がこの『死なない体』になったのは少し前のこと、まだ私が学生だった頃だ。別に特殊な病気ではないしどこかの施設や研究所で大切に管理されているからというわけでもない。普通の日常で普通の生活を普通に送ってきた。
私が今怪我や病気をしなくなったのはある人が私を守ってくれているからである。守ってくれていると言っても物理的にではなく超常的…とでも言うのだろうか。ともあれその人が私を守ってくれているおかげでこうして私は何事もなく生きている。そして私を守ってくれているその人も私と同じ『死なない人間』だった。だがその人は心からその体質を忌み嫌っていた。なぜならばその人と私には同じであっても全く違うものであったからだ。
その人は私の命を救ってくれた恩人だった。私は車に轢かれそうだった所をその人に助けてもらった。それがその人との最初の出会いだった。翌々考えればそれは最初ではなかったのだがそれは今は置いておこう。
その人は私を助けてくれた。正確にはその人は何もしていないのだがそれでもその人が助けてくれたことに違いはない。その人がいなければ私はあのときあのまま轢かれていただろう。そして私はその人に幾度もこの命を助けてもらった。あの人にはその気はなかったのかもしれないが感謝してもしきれない。その度に何度もその人に『ありがとう』と感謝の言葉を伝えた。後にその人は他校の生徒であるということがわかった。本音を言えばその人の存在はその人に出会う以前から知っていた。誰もが一度は耳にしたこと、口にしたことがあるだろう『死神』と呼ばれる少年がその人だった。そしてその人が心から忌み嫌っていた、それでもとても大切なものを、私に託してくれたのだ。そしてその人が私の側にいる、守ってくれているという証がしっかりとこの手にある。そしてこの手を見るたびに思い出す。もう秋だというにも関わらず台風も未だにちらほらとやってくる例年とは少しずれたそんな年。蝉がうるさく鳴いていたと思っていたら気がつけば鳴く虫が変わっていたそんな季節。吹く風は少し冷たく、けれど日があるうちは程よく暖かいそんなとき。私の人生で一番大きく、とても大切なたった三日のあの日々を、二度とは戻らない、戻れない楽しかったあの時を、あの人が共にいたあの時を。
私はいつまでも忘れない。あの人がいたという事実を、あの人がその命と引き換えに叶えたその願いを。