アイスの段
そう考えると勇者でなくてもよかったのかと考える。
しかし常日頃から勇者と向き合わなければならないのだから、辛い。
泣けてくる。
一年や二年、人生の働き盛りだけならばよかった。けれど魔王は一定年数から老いることはない。
つまり若いまま死ぬと言うこと。
定年退職がほしい。
この国に来て五十年世話役にいろいろと叩き込まれて鬼だと泣き叫んだ日々。
残りの五十年は勇者の相手。
世話役と向き合えばと思うと、最初はよかったが今は五十歩百歩。あまりありがたみがない。
「しかしまぁ。子供が腐ってる場合もあるのか」
「あるねぇ」
世話役が隣から十段ぐらいに積まれたアイスを両手にもっているが突っ込まない。
決して突っ込んでやるもんか。
「つか、あるんだ。そういうの」
「子は親を見て育つ。国が腐り果てているのにまともに育つと思う?反面教師なんて言葉もあるけど周りにいない特別な人物だからあぁなりたくないって思うんだよ」
「じゃあ俺たちみたいなもんか」
「そーそ」
世話役はアイスを二段ほど一気に丸飲み。
突っ込まない!
誰がなんといようと突っ込んでやるもんか。
見た目格好よくて、少し灰色がかった髪色で三十代にも見える出で立ち。
テレビとかのアイドルグループにでもいそうなイケメン。
それが丸飲みって。
さすが魔族と言うべきか。
「あははは、俺種類的には蛇だし」
だからドSなのか。つか心読むな。
「世話役足るものこれくらいで来て、当然です?」
「聞くなよ」
この男実年齢二百を越えているらしい。
「そういえば何か用事?」
「あぁ。勇者が魔王城に侵入してさ、戻ろうかと思ったら、さっきトラップにかかって即死したみたい」
「わお。ほっとこ」
心中はざまーみろどうやらストレスが貯まっているらしい。
「最近の若者は礼儀知らずだよね。ちゃんと「魔王はお出掛け中」ってメモ残してきたのに」
「なんか漫画のタイトルみたい。いや、それはいいんだけど」
「ま、たまには君に付き合ってあげようかなーって」
優しく微笑むと、異世界の勇者が持ち込んだために広まった漫画の販売イベントへとふりまわされる。
おまけ、魔王城の勇者は
五年の歳月をかけてようやく魔王城へと到着した。
「魔王は出掛け中(^з^)-☆
悪いけど出直してね」
装備は万端で必死に魔王を倒してやって来た勇者たちはそんな偽りの情報に騙されない。
「ふっ、この優秀なる天才的勇者の僕がこんなので帰ると思うなよぉおお!」
宝かに笑う姿に先に一人で戻った世話役が突っ込む。
「優秀で天才って、そういうのって自称(笑)が多いよね」
「くちでかっこわらいっていうなぁあ!ってお前誰だぁあ!」
「騒ぐな騒ぐな、俺は蛇の世話役さんです!ほし。よろしく!」
「いや、くちで言うなよ?星ってぇえ」
「だぁら騒ぐんじゃねぇよ」
勇者一行を扉に向かって蹴り飛ばす。
ドアが閉まったらすかさず魔王を呼びに行く。
入れた勇者はその後宝箱トラップに引っ掛かり、落とし穴に落ちて、そして唯一残った勇者は誰もいない魔王の椅子を見て魂を飛ばしてしまったと言う。
世話役は魔王に微笑む。
「めでたしだね?」
「めでたくないな、つか世話役は核心犯だろ」
「何を今さら」
「けたけた笑うってことは自覚ありか」
後日の上映会にて。