パーティーから追放されましたが、「ハズレ」の料理魔術で辺境の食糧問題を解決します
よろしくおねがいします。
「ロイ、パーティーから抜けてくれ」
俺たちの席を中心に、酒場の中は少し静かになった。
冒険者ギルドの隣という立地条件により、店の中はほとんどが冒険者だ。パーティー追放はこの場の客層に刺さる突発イベントとなってしまった。
周囲の注目を感じながら、俺は尋ねた。
「……それは、戦力的な問題で?」
俺のスキル「料理魔術」は、あまり戦闘向きではない。
野営の際には最高に役立つ能力だと自負しているが、戦闘の真っ最中に効果があるのは、直前に食べた料理のバフ効果くらいだ。
「……確かに食事でバフを取れるのは安く上がる。でも、同じ内容はアリアの魔術でも叶うんだよ」
その分、彼女の魔力消費の負担が増える……と指摘はしなかった。
バフに魔力を割り振っても冒険中の必要な魔術は賄いきれる、そう判断したからこその脱退勧告なのだろう。
「食料と水は、残った人間で分けて運ぶことにする」
今までは全部、俺の食品専用庫 に収納していた。そもそも普通のパーティーでは、メンバーの収納スキルや収納アイテムに分散して保持するのが基本なので……俺が抜けたことで極端に困ることはないだろう。
「……お世話になりました」
俺が白旗を上げると、メンバーはあからさまにほっとした顔をした。
◇
冒険者ギルドに変更申請を出して、俺はめでたく単身冒険者になった。
「うーん……一人でも達成できそうな依頼……」
冒険者ギルドの依頼ボードの張り出しを読む。
今までは気にしていなかった「紹介手数料」が気になる。
計算は「基本の手数料+人数に比例した加算」なので、1人で申し込みすれば手数料100ゴールドで報酬700ゴールドの仕事が、3人で申し込みすると手数料120ゴールドで報酬2,100ゴールドの仕事になったりする。
単身冒険者が利益を上げていくには、報酬が人数で変わらない「固定報酬型」の依頼を着実にこなすのが王道である、らしい。
冒険者としてデビューした当時すぐに今のパーティーに誘われて、以来ずっと経理の得意なリーダーに頼っていたので、単身冒険者としての経験がほとんどない。
(定番は薬草摘み、って聞くけど……)
血止め草募集、1本あたり30ゴールド(上限10本)紹介料50ゴールド。
ムームー鳥の肉1体(丸焼きに使える美品)報酬280ゴールド、紹介料70ゴールド。
「……こっちは、護衛?」
辺境への小麦配送の馬車の護衛、領主倉庫にたどり着くまでの日数×1,000ゴールド(※往路10日程度、帰路は報酬計算に含まれません)紹介料500ゴールド。
ここまでは普通。
(補足は……収納系スキルで小麦の配送に協力していただける場合、王国標準袋1つに対して28ゴールドの支払いをします)
「……これ、俺のために存在している仕事では?」
◇
顔合わせは先方の倉庫で立ったまま行われた。
「はい、応募ありがとうね」
依頼主のガルドさんは、冒険者ギルドで発行してもらった紹介状と俺の冒険者証を見比べて、日程と仕事内容の説明を始めた。
ギルドを通した依頼は、依頼主に対しても冒険者に対してもお互いにギルドの保証があるのでスムーズだ。
「他に、今気になる点はある?」
「スキルに魔術収納があります。小麦袋がしまえますけど、俺が運べる枠、まだ残ってます?」
ガルドさんは目を見開いた。
「魔術収納? 時空魔術が使えるの?」
「いや、いやいやっそんな良いものじゃないですよ、スキルが料理魔術なんで食品限定で収納できるんです」
「料理魔術、そういうのもあるんだね」
「はは、低評価なんで……」
「ロイ君、そういうのは希少価値って言うんだよ」
(え、この依頼主さん、好き ……)
「一応、商品を預ける形になるから、出し入れのテストしてもらってもいい?」
ガルドさんは周囲を見回して、めぼしいものが見つからずに手首の魔道具に視線をやった。
「アイテム・アウト」
手の中に、軽食らしい紙包みが現れる。
「サンドイッチなら、食品だから施術できる?」
手渡された。
「じゃ、しまいます」
俺の手の中から包みが消失する。
「出します」
元通りに包みが出現する。
ガルドさんに返す。
受け取った彼は包みを開けて、中身を一口食べた。
「うん、問題はなさそうだね」
頷いて、包み直した軽食を「アイテム・イン」と魔道具に戻した。
ガルドさんに連れられて行った場所には、すでに荷造りされている荷車が並んでいた。小麦袋をびっちり積んで、厚手のオイル防水布をかけた上からロープでしっかりと固定されている。
「10台分ある。馬は明後日までは厩舎だよ。それで……」
近くに積み上げてある同種の袋を示した。
「5台分100袋、次の便で運ぶ分。なんとか20袋を収納で運べたら、次の便で馬車が一台節約できるんだ」
「なるほど。……100袋、多分いけますよ」
「本当!? え……すごいね?……えっ!?」
あんまりびっくりされるので、逆にこちらも落ち着かない気分になる。
「容量自体は大きいんです、食品しか入らないだけで。倒したモンスターも、解体して肉にしてからじゃないと入らないし」
それで、と続ける。
「100袋で2,800ゴールド……もらえたりします?」
「あ、あー……待って、ちょっと待って!」
ガルドさんが長考を始めた。
「えー? これ……今、絶対に決めないと、ロイ君的には困るやつ?」
「いや、最終当日の朝に決めてもらっても構わないですけど」
「うー……いや、やっぱり全部収納してもらうのは駄目」
「駄目ですか?」
ガルドさんは手首の魔法道具を顔の高さに掲げた。
「これを作った時に念押しされてるんだよ。破損したら中に入れていたものは戻らない」
俺は頷く。
「そうですね。俺が死んだら、100袋の小麦が取り出せなくなる」
「安全な道を予定してるから、モンスターの襲撃なんてそうそうないけど」
しぶしぶ目の前のチャンスを損切した苦渋の顔で、ガルドさんがまとめた。
「明後日の便は、護衛も馬車も手配が組んであるから予定通り10台で隊列を組む。ロイ君には馬車一台分20袋を運んでもらって、うまくいけば後期の便から1台減らす」
かなり堅実寄りな判断だった。
◇
辺境領主の穀物倉庫に、馬車10台分+ロイが運んだ1台分の小麦袋が無事に納品された。
「モンスターの影すらなかった……のが今回だけは悔しすぎる。いや僕の選択は間違ってなかったけど」
ガルドさんが感情を行ったり来たりさせている。
無事についたのは良かった。でもこんなことなら残りの便のすべてをロイに積み込みしておけば爆益だった。しかし、万が一ロイが馬車5台分の小麦袋を抱いたまま戦死していたら大損だった。でもでも……。
「はぁ……。さてロイ君、そろそろ約束の時間だ。領主様にご挨拶に行こうか」
「よろしくお願いします」
「料理魔術、興味深いね」
領主は予想以上に話に食いついてきた。
「今年は領内が不作でね。寒さに強いという作物も導入したが、食べ慣れていないこともあって、納税分としてうちに集まってきている状況だ」
指示でメイドが持ってきたのは、成人男性の拳ほどの大きさの作物だった。茶色く枯れた外皮が表面を包んでいて、体を丸めている小動物のようにも見える。
俺はその作物を手に取って「食材分析」をかけた。
「……デンプン質が多いので加熱調理向きですね。独特の風味があるらしいので、一般論で言えばスパイスと合わせると食べやすくなるかと思いますが……地域になじんだ料理で香辛料を多めに使うレシピはありますか?」
「ハーブを使った煮込みはあるが、定番の材料が固定されていて、他の物は入れたがらない領民が多い」
「伝統を大事にするタイプなんですね」
「ああ。それに、このヌマイモの風味とハーブの相性も良くないようで、泥臭さが強調されるように感じる」
「泥臭さ……これ、食べてみてもいいですか?」
許可をとってから「簡易調理」をかけた。
一瞬で蒸しあがったヌマイモを割ってみると、領主のいう「泥臭さ」のようなものが湯気の中に感じられた。
割り取って口に運ぶ。デンプン多めのほくほくとしたイモ感に、土の香りが広がる。
「……万人受けするタイプの食材ではないですね」
考える。
「新しいスパイス・調理法とセットにして、こういう料理、として広める。あるいは、このまま食べるのは諦めて加工に使う。手間ですが、スターチを使う需要があるならデンプンだけ活用するという手があります。匂いはほとんど気にならなくなる」
先ほどヌマイモの味と調理について話した領主は、しかし他の料理には詳しくないようで、執事が回答した。
「とろみを付けたりするのには使いますが、主食として大量に使うような料理はございません」
「で、あれば。やはり既存の料理に代用として入れ込むのではなく、新しい料理として調理法ごと広めるのが結果が良いかと。スターチに加工した後であればパンやヌードルにも……」
「すみません、メモを取ってもよろしいですか?」
「……ロイ殿」
領主が口を挟んだ。
「急ぎの予定がなければ、しばらく滞在してもらえないか? 部屋と食事を用意する」
(え? 無料? 無料で泊めてくれるの? この流れは無料だよな?)
一度王都に戻って、ガルドさんの次の小麦袋の搬送と護衛の手伝いをするつもりだったが……。
ガルドさんと目が合った。彼の目力が「受けろ、即決で受けろ、絶対に受けるんだ!」と主張している。
「予定は、特にはないです」
後から考えれば、これが領主館に住むようになった最初の日だった。
◇
「ロイ?」
懐かしい声に振り返れば、そこには過去に組んでいたパーティーのリーダーが立っていた。
「アレク!? 辺境領地で会うなんてすごい偶然だな 」
一年ぶりの再会だったが、追放されたあの夜はもう何年も前の事のように感じられる。
「モンスターの討伐任務を受けに来てる」
冬が来る前に森のモンスターを減らしたい。そんな理由で冒険者ギルドに依頼を出した、と領主館で耳にした事を思い出す。
「ロイ、お前、随分変わったな……? そんな服着るようになったのか?」
素材はシルクでボタンは削った貝殻。上等な衣装を似合わないと言われたようで苦笑する。
「貰い物だよ。ここの領主様が給料とは別に、ちょくちょく恵んでくれるんだ。アレクは……変わらないな」
フォローするように「元気そうで良かったよ」と続ける。
一年ぶりなのに変わっていない。装備が当時と同じ物で、経年劣化を差し引きすると悪くなっていると言えるかもしれない。
(停滞してる中堅の空気?)
俺が抜けたせいだったらいいのに、なんて意地の悪いことを考えてしまう。
「なあ、ロイはもう冒険者はやめたのか? まだ続けてるんだったら、今更だけど戻らないか? 席なら空ける」
(あれ? 停滞してるのって、本当に俺の不在が原因だったりする?)
「ダメです!」
護衛メイドのミレイユが二人の間に割って入った。
「ロイ様が居なくなったら、誰がヌマイモをデンプンに精製するんですか? クワズタケの処理は?」
「だから、魔術を使わなくてもできる方法があるんだから、作業場を大きくしたり……」
「何十人が必要になる仕事が一瞬で終わる、って言うご自身の重要性を舐めないでください。キノコだって毒抜きのために干したのと、魔法で毒抜きしたフレッシュなのは全然違うじゃないですか。領民が冬にサマーベリーを欲して暴動を起こしたらどうするんですか」
「最後のは、ミレイユが好きなだけだろ……」
食品専用庫 から該当の果物を出して渡すと、彼女は大人しくもぐもぐし始めた。
「登録更新はしてるんで冒険者のままだけど、すぐにここを離れるのは難しいかな」
「そうか」
残念そうなアレクに別れを告げ、俺は帰路についた。
パーティー追放された時には将来ジリ貧かと思ったけど、恵まれた環境に出会えたな、と幸運を思う。
ミレイユがしみじみと呟いた。
「ロイ様、もし領地を離れる事になったら、私も連れて行ってくださいね」
「……それは、プロポーズ的な意味で?」
「食的な意味で」
あれ? 俺、また胃袋だけ掴んじゃいました?
「これで30人目か……」
俺の呟きに、隣を歩くメイドは首を傾げた。
ありがとうございました。




