終夜 「蒼い桜は好きですか」
2031年4月8日、22時。春川一樹と冬山蒼桜はいつものベンチに座っていた。冬山はスーツケースを横に置いている。
「あんたさ、前から言ってるけど、出張なら言っとけよ」
春川がムスッとした表情で言う。
「…ごめんね。最初は1週間だったんだよ?でも、行ったら色々トラブル発生。仕方ないだろ?お土産も買ってきたんだし、勘弁して」
「まあ、それで手を打ってやる」
冬山がほっとする。
「で?受験が始まるって?非行少年」
「そ。非行少年じゃなくて、受験生になんの」
「えろガキが立派になって。お兄さん、感動しちゃう…!」
「おぉ。泣け泣け」
2人はいつも通り、しょうもない話をする。それから2人は橋に移動して、車のライトを見下ろす。
「あんた、いっつも帰る時は駅方向行くけど、車なの?」
「いや?電車」
「なんでここ寄るの?」
「…」
「…?なんで?」
「あぁ…電車来んの待ってんの。乗りたい電車を」
「そ。」
遠くにいる車のライトが2人の目に刺さる。すぐ下を通る車は、エンジン音だけを残して走り去っていく。
「それで、受験生になるからしばらく来ないんだよ。だから、電車来んの待つならパヌコ行けよ」
「あぁ。なるほどねぇ」
「「…」」
橋の入口辺りにある家の庭に、桜が咲いていた。2人はコンビニで飲み物とお菓子を買い、橋の上で桜を見る。冬山が先に口を開く。
「人ん家の桜でも、綺麗だな」
「まあ、桜はなんでも綺麗だろ」
「青い桜でも?」
「夏のだろ?葉っぱのやつ。俺はあっちの方がいいと思う」
「受験生は変なのが好きなんだな」
「いや、ちゃんと理由あるって!」
「ほんとかぁ?で?」
「桜の木が桜を咲かせるのは当然だろ?」
「ん?…あぁ」
冬山は少し意味がわからなかった。当たり前のことを突きつけられたからだろう。
「で…。子供の頃の俺は、桜が咲いてない時は枝だけの、ただの木だと思ってたの…」
春川は少し恥ずかしそうに言った。
「ハゲ桜か…。ハハッ!子供って、想像力やばいのな」
「笑うなよ…」
「まあ、いいじゃねぇか!今ではこうして、ちゃんと桜の夏には葉っぱが生い茂ってるってわかったんだしよ!」
「まあ、それで俺は葉っぱの桜が好きになったの!悪い?」
「いや?いいじゃん。嬉しいよ?」
「…そ」
2人はコンビニで買ったものを全て、たいらげて、お開きにするように片付ける。
「俺はT大卒だけど…。あ、言ったっけ?まぁ、あそこはやめとけ?普通にここからだと遠い」
「…言ってねぇよ」
「あ、そう。てか、大学どこ受けんの?」
春川は少し考えてから答えた。
「秘密!まあ、合格したら教える」
「ひっでぇな」
「だって、落ちたら、おちょくるだろ。あんた」
「…ま、頑張れよ。ばいばい」
「おう!次は1年後くらいか?ま、女には気をつけろよ!じゃあな!」
〜1年後〜
2032年4月8日、22時15分。春川一樹はベンチに座っていた。男を待って、15分。
あいつ、なんで来ねぇんだよ…
〜翌日〜
4月9日、21時56分。今日来なければ、散歩を辞めることを決意して、春川一樹は玄関のドアの前に立った。
「散歩行ってくる」
「気をつけるのよ」
「わかった」
ガチャッ
桜の匂い…
春川は公園のベンチに座って待った。22時13分。
ゴロゴロゴロゴロ
「遅せぇよ…」
冬山はスーツケースをひいて、公園に現れた。
「あれ、非行少年!警察行く?」
「行かねぇよ…」
冬山は春川の隣に座った。
「あんた、出張なら言っとけよ?」
「わりわり。実は、1年間の出張でさ。急で困っちゃう」
「…ハハッ!そりゃ、大変だな」
「怒んないんだ?」
冬山は春川の顔を覗き込んだ。
「いつものことだろ?でも、昨日はムカついたんよ。来たのに、15分経っても来ねぇから…」
「ごめんってぇ。お土産買ってきたから。ね?」
冬山は持っていた紙袋を、春川に手渡す。中を見ると、温泉まんじゅうの下にもう1つ、紙のお土産があった。
「クリスマスの時は、持って帰られちゃったけど」
春川は紙袋の奥底から、そのお土産を出す。
「これ…」
「お土産、気に入った?」
「あれ、続編あるらしいよ」
2人は顔を見合わせ、映画館に見に行った。見終わると、相変わらず冬山は泣いていた。
公園に戻る途中。2人は橋を渡る前に、橋横の家の庭にある桜の前で足を止めた。
「変わらず綺麗なのな」
「確かに…」
冬山は少しいたずらな笑顔で言う。
「蒼い桜は好きか〜?」
「前に言ったじゃん」
「お兄さん、忘れちゃったな〜」
春川は面倒くさそうな顔をしたが、真面目に返す。
「好きだよ。青い桜」
「…そう」
冬山は、真面目な返事に少しだけ驚いた。
「「…」」
風が吹いて桜が舞う。
「なんで、あの時嬉しかったの?」
春川は1年越しに、理由を聞こうと思った。
「…あはは!そんなこと言ったか?俺」
「覚えてねぇの?ま、久しぶりに楽しかった!じゃあな?」
「じゃあね。非行少年」
駅方向に振り向く冬山の顔を、春川が覗き込み、再度言う。
「じゃあな?」
「…またな!」
春川は満足そうな表情を浮かべた。
〜春川家〜
春川が変わらず使っているコルクボードには、今現在、4枚の映画のチケットが貼られている。それを見ながら、春川は考えた。
俺、「嬉しいって言ってたの?」って聞いてないよな…
〜冬山家〜
冬山は映画のチケットを冷蔵庫にマグネットで貼った。
非行少年は、明日もいるのかな〜
22時34分上映"Nem'oubliez pas"と書かれたチケットを眺めながら、冬山はクッキーアンドクリームのアイスを食べた。
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