5夜 「声よ染まれ。我の色へと。」
11月13日、22時。冬山は逆ナンに遭っていた。橋の手前のラブホの前で。
「お兄さ〜ん、いいでしょ?あたしと寝よ?」
「いや、これから約束してるんで」
「えぇ〜、じゃあ、じゃあ、3P!ね?」
勘弁してくれよ。ちょっと目が合ったくらいで…
絡まれているところで、公園側のラブホの道に非行少年がいた。助けを求める冬山と目が合った。
ちょうどいいとこに!
「あ、俺の友達来たから、お姉さんちょっとごめんね」
腕をがっちりとホールドする女の腕をはらい、非行少年の元に急ぐ。
「アハハハッ!マジで逆ナンされてんじゃん!困り顔、めっちゃ面白かったわ。あ〜、動画撮っとけば良かった」
「人が困ってんのに、趣味わりぃよ」
「日頃の行いがわりぃんだろうよ」
「へいへい」
公園を見ると、いつものベンチ上の公園灯が修理の真っ最中だった。もちろんベンチは座れない。
「帰るか?非行少年よ」
「えー、今やだよ」
「なんでだよ?ほんとは高校生は、理由も無く22時に外いちゃダメなの。警察行く?」
「警察行かねぇよ。てか、ちゃんと理由あるし」
「何よ?」
「母さんと父さんが喧嘩中で、居づらいの」
「あ〜」
非行少年がスマホを操作しだす。
「映画見ねぇ?」
「映画?何見んの?」
「これ」
スマホ画面には、フランスの動物感動系映画が表示されている。
主演、俺の好きな俳優…
「見る」
「よっしゃ!あんたの奢りな?助けてやったんだし!」
「それが狙いか…」
「フフンッ」
2人は駅前のパヌコに併設されている映画館に向かった。チケットを買って、7番スクリーンに行く。席は、夜だからかガラ空きで、2人で貸切状態だった。
「好きなとこ座る?」
「いや、買ったとこだけだろ?あんた、わりぃこと考えんなぁ」
偉いな
「それほどでも」
「褒めてねぇから」
買った席は、部屋の中心の2席。ガランとした7番スクリーンで映画が始まる。2人は寝ずにエンディングまで見終わると、公園に向かう。
「もう、泣くなよ…」
「いや、最後あの犬死ぬとは思わねぇよ…」
「そーだな。あんたも、ああいうので泣けんだな」
「わりぃかよ?」
「いやぁ?いいと思いますよ?お・に・い・さんっ!」
バシッ
非行少年が冬山の背中を軽く叩いた。
「はぁ。お前泣かねぇの?」
「まあ、フィクションってわかってっから」
「あれ実際にあったことって書いてあったぞ?」
「マジ?そっか…」
「てか、お前が見たいって言ったんだろ?面白かったのか、あれ?」
「うん。面白かったよ」
「どこが?」
「うーん…。エンディング曲かな?」
「はあ?」
冬山は非行少年の返しが予想しないものだったからか、思考が止まる。
「あ、いや、その…。歌詞が良くて…」
俺でも泣いたのに、そこかよ…
「どの歌詞が良かったんだよ」
「えっと…"あなたに染まった私の声はあなたの歌にハモっていく"ってとこ」
「え、どこが良いんだよ?」
「想像してみろよ。声が染まるなんて、可笑しいだろ?」
「最近の若者は、比喩もわからなくなったのか…?」
「ちげぇよ!声が"染めることができるもの"ってのが、なるほどって思ったんだよ!」
声は染められるモノね…
「声?あ!喘ぎ声か」
「そんな不純なもんじゃねぇよ」
「じゃ、妄想か…」
「感性豊かって言え」
冬山が腕時計を見る。時刻は0時39分。日付をまたいで2人でいるのは初めてだった。
「随分と遅い帰宅になるな…。親、大丈夫なのか?」
「まあ、寝てるでしょ」
「そ。お前、マジモンの非行少年だわ。」
「うっせぇ」
「「…」」
お互いに顔を見る。冬山の顔には涙の跡ができている。
「ハハッ!ひでぇ顔!」
「別に誰かに見せるわけじゃねぇし、いいだろ」
「いや?また逆ナンされるかも。そーだったら、相手の声をあんたで染めてこいよ」
「はあ?非行少年に加えてえろガキだとは…。お兄さん、悲しい…!」
「えろガキで悪かったな」
「はぁ。ま、気をつけて帰れよ。またな」
「あぁ。じゃあな」
家に着いた非行少年は、長年愛用しているコルクボードに映画のチケットを貼った。
5夜、最後まで読んでいただきありがとうございます
1日お疲れ様です
明日も投稿するので、お楽しみに




