3夜 「秋は求愛。コオロギは鳴く。」
9月17日、21時45分。春川一樹は長袖短パンで玄関に向かう。
「散歩行ってくる」
「気をつけるのよ」
「わかった」
ガチャッ、キィー
あ、コオロギ…
散歩コースの公園。春川はベンチに座る。そして、そのまま寝落ちする。
ゴロゴロゴロゴロ
「…ん?」
「おはよう。非行少年」
「あんたか。今何時?」
「21時57分だね」
「そ。」
男はスーツケースをひいて公園にやって来た。
「出張?」
「そう。2週間。いつも急で困るよ」
「いつも思うけど、一言声かけてくれてもいんじゃね?」
「えー。めんどいじゃん?」
こっちは、来るかわかんねぇから、毎回15分待ってんだよ…
「はぁ。」
春川はため息をつく。男は隣に座る。
「疲れてんなら、早く寝ないとじゃん」
「いいんだよ。夜更かしも青春なの!」
「そうかい。てか、2週間で随分寒くなったな」
「確かに」
「なんか、急にコオロギうるさいし」
「この前、コンビニでおでん始めるって」
「マジか。でも、こういう季節ってフェイントだったりすんだよな」
「確かに。去年なんて10月なのに、急に猛暑日戻ってきたりしたもんなぁ」
2人は話題が変わりながらも話し続けた。
「にしても、ほんっとコオロギうるせぇ。そんな求愛してぇのかよ」
「求愛だけのために鳴り続けてんのかな?」
「そりゃ、そうだろ。今時の高校生は、そういうのも知らなくなっちまうのか?」
「いや、そういうんじゃなくて、何か他に意味があると思うじゃん」
「あぁ。なるほどね?お前はなんでだと思う?」
「え…。うーん…」
春川は男の質問に答えようとしゃがみこみ、近くの草むらを覗いてコオロギを見る。コオロギは1人で鳴り続けている。
1人ぼっちは淋しいよな…
「!」
春川は急に立ち上がる。
「びっくりした!なんだよ…?」
「きっと、こいつら淋しいんだよ。あんたもずっと本命がいねぇだろ?だから、セフレ作ってる。それと同じだよ」
「うわぁ。何それ。なんか酷くない?俺が淋しくて女抱いてるみたいじゃん!」
「事実だろ?」
「あーあ!お兄さん、悲しいな〜!」
「おっさんだろ?」
「お!に!い!さ!ん!」
「うぅ、うるせぇ…。静かにしましょうね、お兄さん?」
「煽り口調が気に入らねぇが、それでいい」
「で、あんたはどう思う?コオロギが鳴く理由」
男は顎に手を添えて考える。
「ムラムラしてるから?」
だと思ったよ
「はぁ」
春川はため息をつく。
「求愛行動だぞ?ムラムラが止まんねぇに違いねぇ」
「もう、それでいいや」
駅方向から、男女が腕を組んでやって来る。コンビニに行き、レジ袋を持って出てくるが、すぐ前のラブホに消えていく。
一部始終を見た2人は互いに顔を見合わせる。
「人間も、1人は淋しいんだよ。あんたみたいなのは、特に」
「そうだなぁ。秋は求愛。夕日のさして、体の曲線浮き出でたるに…。だな」
春川は男を軽蔑した目で見る。
「枕草子で遊ぶの止めろ」
「はいはい」
「"はい"は1回な」
「は!い!」
うるせぇ
「じゃ、もう帰るぞ。子供は寝る時間だ」
「何時?」
「22時30分。疲れてんでしょ?帰ろ。俺も疲れたし」
「そうだな」
2人は公園の出口に向かう。そこへ、カップルが来た。
「あ!ねぇねぇ、あの子ってあたしたちが来る度、なんなんだよ!ってキレてた子じゃない?」
「多分ずっとキレてたんだよ。なちちゃん、ああいう子は見ちゃダメ。行こ?」
「行こ〜」
コソコソ話すカップルの会話は、男にはっきり届いた。春川の方をチラッと見る。
「あんたが来ねぇから、わざわざ待ってたんだよ!急に来なくなったら、心配くらいすんだろ?」
「ハハッ!お兄さん嬉しいー!」
春川が耳を赤くする。
「忘れろ!じゃあな」
「またね〜!」
男はルンルンで帰って行った。男は電車で揺られながら、コオロギが鳴く理由を調べた。
3夜、最後まで読んでいただきありがとうございます
お仕事だった方も、そうでない方もお疲れ様です
明日も投稿するので、お楽しみに




