第三十三話 鉱山を取り戻した日
* * *
一行は足を進める。
集落への道は静かだった。
けれど、その静けさが逆に耳を刺す。
俺は歩きながら、萬子さんの横顔を盗み見た。
戦いを終えたばかりなのに、疲れを見せない。
ただ、どこか遠くを見ているような目だった。
――守れたことに、ほっとしてるのか。
俺には分からない。
けれど、その背中は頼もしかった。
集落の入り口が見えた瞬間、見張りのドワーフが目を見開いた。
次の瞬間、腹の底から響く声が飛ぶ。
「親方が帰ってきたぞォ!」
その叫びが、集落全体に広がった。
遠くで、鐘の音が鳴る。
歓声が波のように押し寄せてくる。
俺たちが門をくぐると、ドワーフ達が雪崩みたいに集まってきた。
その熱気に、戦いの冷たさが溶けていくのを感じる。
「あなた!」
人垣をかき分けて飛び込んできたのは、親方の妻と娘だった。
妻は涙をこぼしながら、親方に抱きつく。
娘も小さな腕で必死にその体を掴んでいた。
「よかった……本当に……!」
その声が震えていて、俺の胸まで熱くなる。
萬子さんが、その光景を優しい眼差しで見つめていた。
普段の冗談好きな顔じゃない。
静かで、温かい顔だった。
――この人、本当に強いな。
俺はそう思った。
親方が妻と娘を抱きしめ、ゆっくりと集落の民に向き直る。
その声は、岩を砕くように力強かった。
「鉱山を取り戻したぞォ!」
歓声が爆ぜた。
地面が震えるほどの声。
笑顔と涙が入り混じり、集落全体が一つになった瞬間だった。
ドワーフ達は肩を叩き合い、武器を掲げ、喜びを分かち合っている。
その輪の中で、俺は立ち尽くしていた。
胸の奥に、熱いものが込み上げる。
その時、親方の娘が萬子さんの前に駆け寄った。
喜びの涙を湛えながら、震える声で言った。
「おねーちゃん、ありがとう!」
萬子さんは少し驚いた顔をして、それから柔らかく笑った。
「こっちこそ、ありがとう」
その笑顔が、集落の灯りよりも温かく見えた。
俺は唇を噛んだ。
この世界で、俺にできることは何だろう――。
そんな問いが、歓声の中で静かに芽を出していた。
* * *




