表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚された俺、姉の親友と帰還を目指す旅をする  作者: しのん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/33

第三十一話 静かな怒りの刃

* * *

萬子さんがよろめきながら立ち上がった。

肩で息をし、胸いっぱいに空気を吸い込む。

その瞳は、深い怒りを湛えていた。

前屈立ちに身を沈めると、両足がわずかに地面に沈む。

その姿は、嵐の中で折れない柱みたいだった。

「押忍!」

声が響いた瞬間、空気が震えた。

怒りをぶつけるんじゃない。

押し込み、研ぎ澄ませ、武道家として心を整える声だ。

その一言で、萬子さんの輪郭が鋭さを帯びる。

黄金色の光が、刻印から迸った。

冷たい刃のような輝きが、闇を切り裂く。

その光は、怒りを燃やす炎じゃなく、怒りを削ぎ落とした鋼の意志だった。

「これ以上、好きにはさせない……!」

低く、静かに吐き出された言葉が、空気を刺す。

俺は息を呑む。

次の瞬間、萬子さんの姿が消えた。

耳を裂く衝撃音。

視界の端で、ダークエルフの体が宙を舞う。

何が起きたのか、俺の目じゃ追えない。

ただ、地面に響く一閃の音だけが残った。

正拳突き――その一撃が、世界を断ち切ったみたいだった。

瓦礫が跳ね、空気が震え、俺の鼓膜が悲鳴を上げる。

その拳に宿った力は、怒りじゃない。

覚悟だ。

守るために研ぎ澄まされた、武道家の刃だ。

瓦礫に叩きつけられたダークエルフが、血に濡れた唇を震わせる。

「ま、待って……! 殺さないで……!」

声が掠れ、必死に命を繋ぎ止めようとしている。

「何でもする……命だけは……!」

その赤い瞳に、恐怖と絶望が滲んでいた。

萬子さんは歩みを進める。

その足音が、静かな怒りを刻むように響く。

普段は笑って、冗談で場を和ませる人なのに――今は鋼の意志を纏っていた。

命乞いするダークエルフに油断する事無く追撃の構えをとる萬子さん

ダークエルフが地面にひれ伏そうとする素振りを見せた――

が、一瞬の内に懐に手を入れ黒い符板を地面に投げ出した。

床に叩きつけられる音と同時に、砕けた破片が赤黒く光る。

次の刹那、黒煙が爆ぜた。

視界が闇に呑まれ、焦げ臭さが鼻を刺す。。

「くっ……!」

萬子さんが跳ぶ。

煙を裂くように後退する、その動きも速い。

そして――影が走った。

黒い獣が、煙の中から飛び出す。

狼だ。

煤にまみれた毛並み、血のような瞳、牙の奥で渦巻く黒い霧。

その姿が、俺の目に焼き付くより早く――

ダークエルフを噛み締め、抱え込むように引き寄せた。

湿った音が、煙の中で短く響く。

次の瞬間、壁を蹴り、闇へと消える。

疾風みたいに。

俺の理解が追いつく前に、すべてが終わった。

残ったのは、符板の残骸と、血の匂いだけ。

萬子さんが低く息を吐いた。

その肩がわずかに震えている。

俺は唇を噛む。

逃げた……。

* * *

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ