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異世界召喚された俺、姉の親友と帰還を目指す旅をする  作者: しのん


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第二十八話 炉火の誓い

* * *

炉の赤い火が、岩壁に揺れる影を落としていた。

親方の家は、岩を削って造られた頑丈な造りだ。

壁には鉄の装飾が施され、鍛冶場の匂いがまだ残っている。

外の霧とは別世界のような熱気が、肌にまとわりついた。

「座ってくれ」

親方の声は低く、だが疲れが滲んでいた。

俺たちは木の長椅子に腰を下ろす。

キャソさんは壁際にしゃがみ込み、じっと親方を見ている。

エルさんが静かに口を開いた。

「まず、鉱山で何が起きているのか……詳しく教えていただけますか」

その声は落ち着いていて、聞く者に安心を与える響きがあった。

親方は深く息を吐き、灰色の髭を撫でながら言った。

「三か月前だ……鉱山で魔物が一体、現れた」

拳を握りしめる音が聞こえそうなほど、言葉に力がこもる。

「そいつが鉱山を占拠したんだ。あそこは符板の原料になる鉱石——『グラナイト・ルーン』が採れる場所だ」

炉の火がぱちりと弾け、赤い火花が宙に舞う。

親方の声がさらに低くなった。

「魔物が居座ってから、周りに狂った獣が出るようになった。牙を剥き、目を赤く光らせてな……近づくこともできねぇ」

その横顔に刻まれた皺が、苦悩を物語っていた。

「家畜は何頭もやられた。集落の者も怪我を負った。行商人は来なくなり、食料は底をつきかけてる」

親方の手が膝を叩き、鈍い音が響いた。

「俺たちは鍛冶と採掘で生きてる。だが鉱山に近づけねぇ今、命がけで狩りや採取をするしかない。鉱山地帯じゃ鉱石以外の資源は乏しい……もう限界だ」

萬子さんが拳を握り、力強く言った。

「……分かった。私たちが何とかする」

その声に、親方の目がわずかに揺れた。

エルさんは静かに頷き、炉の火を見つめながら言葉を紡いだ。

「先ほどの狼に食い込んでいた符板……あれは異常でした。黒電の走る符板など、私も初めて見ます」

銀縁の眼鏡の奥で、瞳がわずかに光る。

「符板は、本来、込められた刻印の力を簡易発動させるためのものです。獣を狂わせる効果など、通常の符板にはありません」

ページをめくる音が重く響く。

「誰かが獣を狂わせる符板を“新たに作った”……そう考えるのが自然でしょう」

その言葉に、胸の奥がざわつく。

——新たに作った?

符板を加工し、刻印の均衡を壊す仕組みを組み込む……そんな技術があるのか?

俺は無意識に拳を握った。

魔物が鉱山を占拠した理由。符板の原料を奪った理由。

それは、符板を“作る”ため——

ただの鉱山争奪じゃない。もっと深い意図がある。

視線を炉の火に落とすと、赤い炎が揺れながら、まるで何かを告げているように見えた。

「……嫌な予感しかしない」

声にならない言葉が、喉の奥で消えた。

エルさんは本を閉じ、静かに言った。

「鉱山に行けば、答えが見つかるでしょう」

その時、親方が立ち上がった。

椅子が軋み、炉の火がその影を大きく揺らす。

「鉱山までの道は危険だ。俺が案内する」

低い声に、決意が宿っていた。

「あそこまで安全に連れて行けるのは俺しかいねぇ。」

その目に宿った光は、鍛冶場の鉄よりも固かった。

俺は息を呑む。

——この人も、命を懸ける覚悟を決めたんだ。

炉の火がぱちりと弾け、赤い火花が宙に舞った。

* * *

朝の霧がまだ薄く漂う中、集落の門前に熱気が満ちていた。

鍛冶場の者たちは煤に染まった手でハンマーを高く掲げ、鉄を打つ音を鳴らして気持ちを託す。

狩人たちは斧の刃を太陽にかざし、親方へ無言で深い頷きを送った。

その仕草には、言葉より重い願いが込められていた。

子どもたちは小さな拳を握りしめ、親方へ必死に声援を送る。

老人たちは杖を突き、震える手で祈りの印を結んでいた。

集落全体が、一つの想いで親方を送り出していた。

そこへ突然、甲高い声が空気を裂いた。

「とうちゃん!」

小さな影が駆け寄り、親方の腰にしがみつく。

娘の腕は細いのに、必死に力を込めていた。

「死なないで……絶対に帰ってきて!」

涙で濡れた瞳が、親方を見上げる。

その声は、胸の奥を突き刺した。

親方は膝を折り、大きな手で娘の頭を包む。

「この人たちと魔物を退治して帰ってくる」

低く、揺るぎない声だった。

「母ちゃんといい子にして待ってるんだぞ」

娘は唇を噛みしめてうなずいた。

だが次の瞬間、母親がたまらず駆け寄る。

親方の胸に飛び込み、震える声を絞り出した。

「無事に……帰ってきてください!」

親方はその肩を抱き、静かに言った。

「留守は任せた。行ってくる」

その背中は、打ち鍛えられた鋼よりも固く、父の誇りを映していた。

娘が萬子さんに近づき、涙を拭いながら言った。

「おねーちゃん……とうちゃんをまもって」

萬子さんは静かにしゃがみ、娘の目をまっすぐ見た。

「約束する」

その声には、揺るぎない決意と、闘志の炎が宿っていた。

「悪い奴、全部やっつけて……とうちゃんと必ず一緒に帰ってくる」

娘の瞳に、わずかな光が戻った。


——絶対に魔物を倒す。

この人たちの笑顔を守るために。

俺は杖を握りしめ、心の奥で固く誓った。

霧の向こうに続く道が、戦いの影を孕んでいる。

だが、もう迷いはない。

* * *

メリークリスマス。

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