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異世界召喚された俺、姉の親友と帰還を目指す旅をする  作者: しのん


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第二十二話 約束の地で

祭壇の間に静寂が満ちていた。苔むした石壁に囲まれた空間の中央で、紅玉が淡く光を脈打たせている。その光がわずかに強まり、低く響く声が空気を震わせた。

「――最後にひとつ、聞いていいか。お前たち全員にだ」

その声に、俺は思わず息を呑む。萬子さんもネイもキャソも、わずかに身を固くした。紅玉の奥から響く声は、重みと懐かしさを帯びていた。

(アーカイブさん……何を聞くつもりなんだ?)

エルさんが一歩前に出て、本を胸に抱えたまま静かに応じる。

「何でしょう、アーカイブ殿」

紅玉の光が淡く瞬き、声が続いた。

「シンジュクから来たお二人さんだ。名前はマエダとテラジマで間違いないな?」

ネイが冷静に答える。

「そうだ」

キャソが喉の奥で低く唸り、爪で土を抉った。

「グルルガン」

アーカイブさんの声がわずかに震える。

「俺が異世界を旅していたころ、ずっと一緒に旅してたエルフと獣人にその姓を贈ったんだよ。もしかしてと思ってな」

ネイの瞳が揺れ、冷静な表情がわずかに崩れる。

「……私の一族は、この神殿をお前の復活の祭壇として守ってきた。キャソは墓守として、同じように守ってきた」

「……!」

紅玉が強く光り、アーカイブさんが沈黙する。光が脈打つたび、空気が震え、苔むした壁に淡い影が踊った。

しばしの静寂の後、低い声が再び響く。

「多分、お前たちの祖先だろうな。……遠い昔、この神殿を前にして語り合った記憶がある。ここは俺の眠る場所であり、いつかお前たちの血を継ぐ者と再び巡り会う――そんな約束の地になるだろう、と。……律儀に、それを守ってきたんだな」

胸の奥がざわつく。二百年も前の約束が、今ここで果たされようとしている――そんな重みが、言葉の端々に滲んでいた。

紅玉の光が淡く揺れ、声が軽くなる。

「だがよ、ここ百年は守り方が過激すぎて誰も寄りつかねぇ。退屈で退屈で、紅玉の中で苔でも数えそうになったぜ」

ネイが小さく息を吐く。

「……すまない」

アーカイブさんが小さな声で言う。

「こちらこそ、ありがとう」

ネイが眉をひそめる。

「何と?」

アーカイブさんがいっそう激しく光輝き

「二百年前の親友に祝福をってとこだ。なぁ、萬子ちゃんとケイタ君よ」

萬子さんが首を傾げる。

「何ですか?」

「一つ頼みがある。お前らの旅に、こいつらを連れて行ってくれねぇか?」

俺は目を見開いた。

「えっ?」

アーカイブさんの声が低く響く。

「俺のくだらねぇ言葉のせいで、こいつらの一族をこんな辺境に二百年も縛り付けちまった。……俺と同じで旅が好きだったやつらだ。その子孫に、外の世界を見せてやりたいんだよ。俺が見た景色と同じようにな」

ネイとキャソが驚きに目を見開いた。キャソは低く唸り、爪で土を抉りながらネイの横に立つ。肩の筋肉が盛り上がり、鋭い爪が石床に深い傷を刻む。

アーカイブさんが軽く笑うように光を瞬かせる。

「勝手に話進めてるけど、問題あるか?」

ネイは長い沈黙の後、かすれた声を絞り出す。

「……わからない。私の親も、そのまた親も、ずっとそうしてきたから……どうしたらいいか、私にはわからない」

キャソは喉の奥で唸りを響かせ、ゆっくりと大きく頷いた。苔むした床に影が揺れ、巨体がわずかに震える。

アーカイブさんが紅玉の中で笑ったように光を瞬かせる。

「まっ、守ってくれって言った『本人』が、旅に出ていいって言ってるんだ。後は――『マエさん』たちの気持ち次第だな」

ネイの瞳が揺れ、やがて静かに告げる。

「……行きたい。私も、この神殿の森じゃない世界を見たい」

その言葉に、胸の奥が熱くなる。俺は萬子さんと視線を交わした。彼女の目も、同じ光を宿していた。

アーカイブさんが声を弾ませる。

「決まりだな。『テラジマ』ももちろん行くよな?」

その瞬間、キャソが両腕を大きく広げ、空気を震わせるほどの雄たけびをあげた。

「グオオオオ!」

苔むした石壁にその声が反響し、森の奥まで響き渡る。まるで長い鎖が断ち切られた瞬間の歓喜のようだった。

萬子さんが笑みを浮かべ、俺と視線を交わす。

「じゃあ――決まりだね!」

俺も息を整え、力強く頷いた。

「……うん!」

エルさんは本を胸に抱え、静かに微笑む。その瞳には、学者としての興奮と、仲間を得た喜びが混ざっていた。

「面白くなってきましたね。旅路に新しい仲間が加わる――これ以上、心強いことはありません」

紅玉の奥で淡い光が揺れ、アーカイブさんの声が遠くなる。

「……ありがとうよ。二百年越しの呪いを解く事ができたみたいで」

その言葉が、静寂に溶けていく。苔むした壁に反射する光が、まるで別れの微笑みのように淡く揺れた。

俺は深く息を吸い込む。冷たい空気が肺を満たし、胸の奥で熱と混ざり合う。

(この旅は、きっと――俺たちだけのものじゃない)

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