表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚された俺、姉の親友と帰還を目指す旅をする  作者: しのん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/33

十八話 長き名の封印

* * *

苔むした石段を踏むたび、湿った感触が靴底に残った。

森の匂いは薄れ、代わりに古い石の乾いた匂いが鼻に触れる。

通路は静かで、俺たちの足音だけが淡く響いていた。

先頭を歩くネイさんが、ふと歩みを緩めた。

薄明かりに照らされた横顔がわずかに揺れ、長い耳が小さく動く。

しばらく沈黙が続いたあと、

彼女は前を向いたまま、静かに言葉を落とした。

「……一つ、聞きたいことがある」

その声は淡々としているのに、 どこか慎重に言葉を選んでいるような響きがあった。

「お前たちの“元の世界”の人間は……皆、あれほどの力を持っているのか?」

唐突ではなく、 戦いの後の静けさの中で自然に生まれた疑問だった。

萬子さんが小さく笑い、肩の力を抜く。

「強い人ばっかりじゃないよ。 むしろ――ケイタの姉の方が、あたしより強かったくらい」

通路の薄明かりが、萬子さんの横顔を柔らかく照らす。

「あの子が空手やってた小学生の時に、一回も勝てなかったし」

「えっ、そこ言う?」

反射的に言い返していた。

声が石壁に跳ね返り、少し大きく聞こえる。

萬子さんは肩をすくめ、続けた。

「だって事実でしょ。 あの子、なんか眼が良いっていうか……勘がいいっていうか…… 技がまともに当たらないんだよね」

その言葉に、体育館の匂いがふっと蘇る。

汗と木の床の匂い。

姉ちゃんの動きだけが、妙に軽くて速かった。

「でも姉ちゃん、ゴツくなるの嫌だって言って、 あっさりやめたんだよな。 先生に“もったいない”って言われてたけど」

通路の奥から冷たい風が流れ、ネイさんの髪がわずかに揺れた。

彼女は歩みを緩め、こちらを横目で見る。

「……なるほど。 だが、ケイタも相当だ。 眼の良さもそうだが、あの反応速度は尋常じゃない。 そういう家系なのか」

その声は淡々としているのに、

観察した結果を静かに積み上げていくような重さがあった。

俺は首をかしげながら答える。

「いや……どうだろ。 俺は違うと思うけど……」

言葉にしてみても、自分でもよく分からなかった。

* * *

通路の先がわずかに開け、空気が変わった。

湿り気のある風が止み、代わりに冷たい静けさが肌に触れる。

祭壇の間――そこに辿り着いた。

薄暗い空間の奥に、分厚い石の扉がそびえていた。

苔むした壁とは違い、その扉だけは異様なほど滑らかで、 まるで時間の流れから切り離されているように見えた。

扉の手前には、腰の高さほどの石の台が一つ、ぽつんと置かれている。

この距離からでは、上面の様子まではよく分からない。

「……あれが、祭壇の間の“鍵”と考えてよさそうだね」

エルさんが小さく呟き、先に歩み出る。

俺たちは少し離れた位置で足を止めた。

エルさんが台の側面をなぞり、ゆっくりと回り込む。

上面を見下ろすその背中に、緊張がじわりとにじんでいるように見えた。

「手形の窪み……そして、水晶か」

独り言のような声が、静かな間に落ちる。

ここからは、中央に何か窪みがあるらしいことと、

そこに透明なものがはめ込まれているのが、かろうじて見えた。

だが、細かい模様までは分からない。

エルさんは慎重に手を伸ばし、 窪みに埋め込まれた水晶へ、そっと魔力を流し込んだ。

しかし――何も起こらなかった。

光も揺らぎも、反応すらない。

「……反応はない、か。 この周りの模様が何なのか分かれば、手がかりになるのだが」

エルさんが小さく息を吐く。

その言葉に、萬子さんが一歩前に出た。

「ちょっと、あたしも見ていい?」

許可を待たずに、台へと歩み寄る。

俺も少し遅れて後を追った。

近づいてみると、台の上の様子がはっきり見えてくる。

中央には、人間の手の形をした窪み。

その底に透明な水晶が埋め込まれ、

周囲には細い線がびっしりと刻まれていた。

最初はこの世界の古い文字か何かだと思った。

だが、萬子さんが眉をひそめて身を乗り出す。

「……ねぇ、これ……」

低い声だった。

さっきまでの軽さが消えている。

「ケイタ、こっち来て」

促されて覗き込むと――

そこに刻まれていたのは、

英語。

そして、日本語。

喉がひゅっと鳴った。

「……これ、俺たちの世界の言葉だ」

自分の声が、少し上ずって聞こえた。

ネイさんが静かに近づき、俺を見る。

「……なんと書いてある?」

日本語の部分だけが、妙にくっきりと目に入る。

俺は息を整え、ゆっくりと読み上げた。


「――

じゅげむ じゅげむ

ごこうのすりきれ

かいじゃりすいぎょの

すいぎょうまつ

うんらいまつ

ふうらいまつ

くうねるところに

すむところ

やぶらこうじの

ぶらこうじ

パイポパイポ

パイポのシューリンガン

シューリンガンのグーリンダイ

グーリンダイのポンポコピーの

ポンポコナーの

ちょうきゅうめいのちょうすけ」


読み終えた瞬間、

祭壇の間の空気が、わずかに震えた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ