第十七話 エルネストの思惑
* * *
森にまだ戦いの余韻が漂っていた。焦げた匂い、裂けた土、矢が突き刺さった木々。萬子さんは肩で息をし、獣人はなおも低く唸り声を響かせている。エルフは弓を構えたまま、冷たい瞳でこちらを見据えていた。
その緊張を裂いたのは、エルさんの声だった。
「――そこまで!」
普段の穏やかな調子とは違う、鋭く張り詰めた声。萬子さんが目を見開き、俺も思わず息を呑む。
(エルさんが、こんな声を張るなんて……)
エルフの指が弓弦から離れ、獣人の腕がわずかに下がる。森の空気が一瞬、凍りついたように静まった。
エルネストはゆっくりと二人に歩み寄り、低く、しかし威圧感を帯びた声で言った。
「この二人の実力は――お分かりいただけたかな? そこに、『高位の刻印士』である私が加わるとどうかね?」
その言葉に、エルフの瞳がわずかに揺れる。獣人は低く唸り、地面を爪で抉った。
「グルル……」
エルネストの視線は鋭く、まるで空気そのものを支配するかのようだった。
エルフは観念したように弓を下ろし、淡々と呟く。
「……分かった」
獣人はまだ喉の奥で唸りを漏らすが、エルフが一歩前に出てその腕に触れると、巨体は動きを止めた。
「グルルガン……」
エルネストはそこで声を和らげ、静かに言った。
「よろしい。では、まずは落ち着いて話をしよう」
その瞬間、俺の胸に小さな棘が刺さった。
(無理に進む素振りを見せて、あいつらをけしかけたな、エルさん…)
* * *
空気が落ち着きを取り戻したところで、エルネストが本を胸に抱えたまま口を開いた。
「さて、まずはお互いの名前を知っておこう」
エルフが淡々と答える。
「私はマエダ=ネイメイ。仲間からはネイと呼ばれている。そして――」
視線が隣の巨体に移る。
「こちらはテラジマ=キャソ」
獣人は低く唸り、鋭い爪で土を抉るだけだった。
「グルル……」
萬子さんが一歩前に出て、明るい声で言う。
「加藤萬子。萬子って呼んでね。――ネイさん、キャソさん、よろしく!」
俺も続いて名乗る。
「羽牟ケイタです。ケイタでいいです。ネイさん、キャソさん、よろしくお願いします」
エルさんが静かに笑みを浮かべる。
「私はエルネスト。宮廷刻印士を務めている。そして――ここに来た理由を話そう」
ネイさんの視線が鋭くなる。
「……聞こう」
エルさんは淡々と告げた。
「記憶の神殿には、世界中の膨大な記憶が眠っているとされている。その中に、私たちが探しているものの手がかりがあるかもしれない。そして――萬子君とケイタ君は異世界から召喚された者だ」
その瞬間、ネイさんの瞳が大きく揺れた。冷静な表情がわずかに崩れ、息を詰める。
「……異世界人?」
ネイさんは一歩踏み出し、冷たい瞳で俺たちを射抜いた。
「異世界人だというなら――証を見せろ」
萬子さんは短く息を吐き、肩の布をずらした。刻まれた二つの紋様が淡く光り、熱と風が絡み合って空気を震わせる。木々の葉がざわりと揺れ、焦げた匂いが微かに漂った。
キャソさんは低く唸り、爪を土に深く突き立てる。
「グオー……」
俺も袖をまくり、指先で刻印をなぞる。青と茶の光が絡み合い、水滴と土粒が宙に舞った。冷たい湿気と土の匂いが森に広がり、地面がわずかに震える。
ネイさんの瞳が大きく揺れ、声がかすれた。
「……あれは……符板じゃなかったのか……二重刻印……神話の中だけの話だと思っていた……」
エルさんが静かに告げる。
「この世界の常識ではありえない。それが、彼らが異界の者である証拠だ」
ネイさんは長い沈黙の後、わずかに頷いた。
「……分かった。信じよう」
* * *
エルさんはさらに続けた。
「もう一つ、噂がある。記憶の神殿には、異世界人しか入れない間がある――と」
萬子さんが小さく頷き、俺も息を整える。
(やっぱり……その話だ)
ネイさんは静かに息を吐き、冷静さを取り戻しながら告げる。
「この神殿は――復活の祭壇と、我々エルフには伝承されている。私の一族は守り手を担ってきた。そして、キャソの一族は墓守として代々、この場所を守ってきた」
俺は息を詰め、思わず問いかける。
「祭壇の間には、何があるんですか?」
ネイさんは淡々と首を振った。
「封印されている。そこに何があるのか――私たちにも分からない」
萬子さんが少し考え込み、やがて笑みを浮かべた。
「じゃあ――一緒に祭壇まで行かない? あたしたちも真実を知りたいし、ネイさんたちだって気になるでしょ?」
ネイさんの瞳がわずかに揺れた。
「……確かに、私も知りたい。なら――案内しよう」
キャソさんは低く唸り、巨体をわずかに揺らした。
「グルルガン……」
ネイさんが静かに言った。
「行こう。祭壇の間まで」
森の奥、苔むした神殿が沈黙を保つ。その扉の向こうに、何が待つのか――胸の奥がざわついた。
~幕間~
萬子「ところでエルさん。」
エル「なんだい?」
萬子「なんかドヤ顔でその場を納めててたけどさ、もし、あたし達の対戦相手が逆だったらバチボコにされてない?」
ケイタ「確かに。」
萬子「空飛ばれて矢をめった撃ちされたら私何もできなかった。」
ケイタ「俺もボコボコに殴られてたと思う。」
エル「その時は私がバチボコ?にするから大丈夫ですよ。」
萬子・ケイタ(この人怖えぇ)
ネイ(あの時素直に従って良かった)
キャソ「クゥーン」




