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異世界召喚された俺、姉の親友と帰還を目指す旅をする  作者: しのん


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第十三話 街の灯

* * *

正午の陽が山の稜線を白く照らし、冷たい風が頬を撫でる。岩場を抜けると、視界が一気に開けた。

眼下に広がるのは、瓦屋根が連なる街並み。煙突から白い煙が立ち上り、遠くで鐘の音が響いている。

(……ゲームの街っぽい。でも、これは現実だ)

胸の奥がわずかに高鳴る。昨日まで焚き火の炎しかなかった世界に、生活の匂いが漂っていた。

「見えてきたね、あれが最初の街だ」

エルさんが穏やかに言う。

萬子さんは目を輝かせて笑った。

「やっと文明に戻れるって感じ!」

* * *

街の門は高く、厚い木の扉が開いていた。門番が槍を手に立っている。

「身分を証明できるものは?」

低い声に、俺は一瞬固まった。

エルさんが一歩前に出る。本を開き、指先で刻印をなぞる。

「――土よ、紋章を描け」

淡い光が走り、土の粒が宙に舞う。やがて帝国の紋章が空中に浮かび上がった。

「私は中央帝国に仕える学者、宮廷刻印士エルネストだ」

その声は静かだが、重みがあった。

門番の目が見開かれる。

「宮廷刻印士様とは……失礼しました!」

態度が一変し、深々と頭を下げる。

俺と萬子さんは顔を見合わせた。

(……エルさんって、すごい人なんだ)

言葉にできない驚きが胸に広がる。

* * *

街に入ると、賑わいが押し寄せてきた。石畳の通りに露店が並び、香辛料の匂いが鼻をくすぐる。鉄鍋で肉を焼く音、果物を切る包丁の音、商人の声が交錯していた。

赤や緑の果実が山のように積まれ、刻印模様の入った陶器が陽光を反射して輝いている。

「ねえ、あれ食べてみたい!」

萬子さんが指差したのは、鉄板で肉を焼く屋台。香ばしい煙が立ち上っていた。

エルさんが笑う。

「異界の味を知るのも学びだね」

俺たちは並んで串を受け取る。一口かじった瞬間、肉汁と香辛料の刺激が舌を打った。

「……うまっ! これ、やばい!」

思わず声が出る。萬子さんも頬をほころばせ、エルさんは満足げに頷いた。

食べ歩きながら、ふと目に留まったのは、複雑な模様が刻まれた金属片や、透明な結晶を嵌め込んだ杖の露店だった。

「これ、何に使うんだ?」俺が指差すと、エルさんが本を抱えたまま説明を始める。

「刻印道具だよ。刻印の力を安定させるための補助具だ。例えば、この結晶は魔力の流れを整える。刻印を刻むとき、イメージが乱れると暴発することがあるからね」

彼は指先で金属片を示す。

「これは『符板』と呼ばれるもの。簡易刻印を刻んで、戦闘中に即座に発動できる。兵士や商人がよく使うんだ」

萬子さんが興味津々で覗き込む。

「へえ、便利そうじゃん。私でも使える?」

「理論上はね。属性が違っても発動できるが、その場合は効果が落ちる。火の刻印で水を操ろうとすれば、せいぜい水を溜める程度だ」

エルさんは肩をすくめて笑った。

「だから、庶民は生活の知恵として使う。火を起こしたり、水を貯めたりね」

彼は少し声を落として続ける。

「刻印道具の中には、帝国の修練場で見た結界のように、魔力や衝撃を遮断するものもある。防御用の高級品だが、貴族や軍で重宝されている」

俺は符板を手に取り、刻まれた模様をじっと見つめる。

(……攻撃だけじゃなく、防御まで。奥が深い)

* * *

夕暮れ、宿の食堂は木の温もりに包まれていた。長いテーブルに並ぶ料理から、香ばしい匂いが漂う。

主人が笑顔で声をかける。

「お前さんたち、どこに行くんだい?」

萬子さんが答える。

「シンジュクってところ」

主人は眉を上げた。

「辺鄙なところに行くんだねぇ」

「どんなところなの?」

「異世界から来たって人が作ったって言われてる街だ。あそこはヤマダとかサイトウとか、変な名前のやつが住んでるのがその名残らしい」

(……ますます日本人っぽいじゃん)

胸の奥に小さな驚きが広がる。偶然じゃないのかもしれない――そんな考えが頭をよぎる。

「どれくらいで着くんですか?」

「大人の足で10日以上じゃないかね」

主人の答えに、俺は思わず息を呑んだ。

* * *

食事を終えると、エルネストが穏やかに言った。

「出発は早いから、今夜はゆっくり休もう」

その声に、胸の緊張が少しだけほどける。

窓の外、街の灯りが揺れていた。

* * *

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