第2話 ゲーム配信
Vtuberになろう。
副業をするにあたって、問題は創作の時間が取れるかどうかであった。時間が自由にならないタイプの副業をすれば本業の方が倒れる。
しかし、Vtuberならばそこそこ自由が利く。もちろん、専業になるのであれば間隔を空けることなくコンスタントに配信をしなければいけないだろうし、配信だけでなく動画やショート、企画を立案したりコラボを取り付けてくるなど色々なことをしなければいけないため、忙しいなんてもんじゃないだろう。普通に副業ごと爆死してしまう。
ただ、兼業になれば視聴者も多少甘めには見てくれる。更新がやや不定期になっても感覚が空きまくって緩やかな感じになっても大目に見てくれる。配信時間が短めでも仕方ないと思ってくれるだろう。ちょっと視聴者に甘える形になるだろうし、そこはちょっと心苦しいけど、これ以上にちょうど良さそうな副業は思いつかないし、仕方がない。
「よし、Vtuberになろう」
と、いうことでそう決意したシオは、早速動き出した。
まず連絡したのは、挿絵を描いてもらったことがきっかけで交流を持つことになったとあるイラストレーター(女性)である。
この人はけっこう多くのVtuberの、いわゆる『ママ』となっている。だから詳しい。だからシオはこの人に連絡して、いわゆる『ママ』、お母さんとなってもらうついでに詳しく教えてもらったのである。
まあその代償として、作画資料にチャイナ服、メイド服、ゴスロリ、バニーガールなどなど色々なコスプレをさせられることに‥‥‥
「えっと‥‥‥こんなかわいい服似合わないと思うんだけど‥‥‥」
「は? いや、めちゃくちゃ似合ってるけど? なんなのそれ、元おじさんのくせに可愛すぎでしょ。なんかむかつくんですけど」
「そんなこと言われても‥‥‥」
「これで胸大きかったらコロしてたよ」
「ええ‥‥‥」
まあそれはともかく。
このお母さんに色々と教えてもらい、Vtuberにおけるいわゆるお父さんを紹介してもらったり、必要な機材などを教えてもらったりして準備を整えた。もちろん、こういうものを揃えるのにもお金はかかったわけだが、これは初期投資だと思うことにした。シオはそこそこ貯金があるので、これくらいのお金を出すのは平気である。
こうして中堅ライトノベル作家、無門キョウカはVの肉体を持つに至った。ただ、今まで普通におっさんであると公言してきたわけで、美少女として売り出したのでは辻褄の合わないところが出てくる。だから、いわゆるバ美肉として、本当はおじさんだけど声をボイスチェンジャーで変えて美少女のように振る舞っている、ということにして活動することにした────ということだ。
◇
「はーいこんにちはー。ラノベ作家兼バ美肉Vtuberの無門キョウカです。今日もよろしくね〜」
『きた!』
『今日もかわいいね〜』
『待ってたよ!』
「やー、ごめんね。だいぶ間隔が空いちゃって。締め切りが近くてさー」
シオはにこにこしながら、開幕の雑談をしばらくしていく。
「今日はお母さん(イラストレーターの方)から教えてもらった美容院に行ってきたんだ」
『美容院‥‥‥?』
『はて? 妙だな、おじさんが美容院に‥‥‥?』
「おじさんだって美容院に行くよ〜。ほら、美容院に行ったからさ、今日のおじさんいい感じじゃない? どう? かわいいでしょ」
『かわいい』
『いや本当にかわいい。おじさんがかわいいのやめてくれ、癖に悪い』
「あはは。‥‥‥それでさ、そこってけっこうおしゃれな感じの美容院だったんだけど、なんでか知らないけど胡椒が売ってたんだよね」
『胡椒‥‥‥?』
『なんで美容院に胡椒が?』
「わかんない。不思議だよね〜」
と、まあしばらく雑談したわけだけど、今日は雑談配信ではない。今日はゲーム実況配信をする予定なのだ。
今日やる予定のゲームは、巷で人気のソシャゲだ。色々なSNSでキャラのイラストが絶え間なく流れてくる感じ‥‥‥といえば大体の人気具合が察せられるだろう。
今日はそのゲーム配信の1回目だ。
《やっぱりさ、チーズハンバーグが一番だと思うんだよ。あれが一番完璧じゃんか》
《いやでも青じその方がさっぱりしてるよ?》
「なんかみんなハンバーグの話してるね‥‥‥」
『まあまだ初めだから‥‥‥』
『始めからハンバーグの話ばっかしてるゲームってなに?』
色々と展開されていくストーリー、説明を必死で追い、操作方法に慣れようとする。ゲームの始めは大体そんな感じだ。でもけっこう楽しい。特有のワクワク感がある。
「あっ、そういえばさあ、このゲームに出てくるキャラにグリーンさんってキャラがいたよね!? 俺、そのキャラ気になってたんだよね〜」
『ああ、あの子! 好きそうだなって思ってたよ。やっぱりか』
『ああいうキャラ好きだよね〜』
「いやー、そうなんだよ。好きなんだよねああいうキャラ! なんていうか、かっこいいお姉さんみたいなさ! イケメン女子!」
シオはイケメン女子が好きであった。これは性転換する前からのシオの癖だが、性転換してからさらに好きになってきた気がする。
さて、噂をすればというやつで、シオがそんなことを言っているとタイミングよくゲームにそのグリーンというキャラが出てきた。
《やあみんな、久しぶり》
「────ッ」
『おっ?』
「か、かっこいいー!!! え、もう少ししゃべってくれないかな!? もっと声聞きたい!!」
『声でか』
『はしゃいでる‥‥‥』
《やっぱり僕はハンバーグにはデミグラスソースだと思うな》
「はああああっ‥‥‥声かっこ良すぎる‥‥‥!」
『おじさんがメロついてる‥‥‥』
『イケメンにメロつくのは女の子の特権。つまり今イケメンにメロついてるおじさんは女の子で間違いないね』
『おじさんの出す声じゃないでしょ‥‥‥』
『メロついてるおじさんかわいいからもっとメロついてほしい』
《よーしみんな、僕についておいで》
「ひゃ、ひゃい‥‥‥一生ついていきます‥‥‥!」
『メスを出すなおじさん』
『メスを出す美少女‥‥‥なんか変な扉が開きそうになってきたぞ‥‥‥』
『やめとけ。その扉を開くのはまだ早すぎる』
今日の配信は大盛況に終わったという。




