番外編 シオがもし高校生だったら
「おいーっす。遊びにきたよー」
高校生のユキは、学校が休みの日に幼馴染のシオの家に遊びに来ていた。幼馴染だから、もう家のインターホンすら鳴らさずに勝手に家に入ってくる。
「あら、ユキちゃん。いらっしゃい」
シオの母親ももうそれを咎めたりすることもなく、にこやかにユキへそう話しかけた。
「あれ? シオは?」
「シオはまだ寝てるのよー」
「えー? もうお昼になるのにまだ寝てるのかあ。全く、休みだからって弛んでるなあ」
「ほんとにねえ。・・・・・・悪いけど、ユキちゃん起こして来てくれないかしら?」
シオの母親は申し訳なさそうにユキに頼んだ。
「いいよー。おばさんも大変だねえ」
と、ユキがシオの部屋のある二階へ上がろうとした、その時だった。
「うわあああああああ!?」
シオの大きな悲鳴が聞こえた。
「なに!?」
「ちょ、なんかあったのシオ!?」
ユキは慌てて階段を駆け上がってシオの部屋のドアを勢いよく開けた。
「ゆ、ユキ・・・・・・」
そこにいたのは、床の上にぺたんと女の子座りでへたり込み、自分の部屋に置いてある姿見を呆然と見つめる少女。少女はゆっくりと振り返ると、涙目でユキの名を呼んだ。
「え・・・・・・?」
ユキは一瞬、知らない少女がシオの部屋にいると思った。しかし、なんとなくその雰囲気から、この少女がシオ本人だと直感的に思った。
「し、シオ・・・・・・ひょっとしてシオなの・・・・・・!?」
シオはこくんと頷いて
「どうしよう・・・・・・女の子になっちゃったみたい・・・・・・」
弱々しい声でそう言った。
山本シオ、16歳、男子高校生。突然女の子になりました。
◇
「性転換症かあ・・・・・・」
あのあと、急いでシオを病院へと連れてった。そして、診断結果は性転換症とのことだった。
「ううー・・・・・・なんだよ性転換症って・・・・・・」
シオはいきなり女の子になってしまって混乱しているようだった。
「まあまあ。長い人生、そういうこともあるでしょ」
「ねえよ! 生きてて突然性別が変わることなんかねえんだよ普通は!」
「まあ、それはいいんだけどさ・・・・・・」
ユキはシオの胸の辺りに目をやって言った。
「その・・・・・・見えそうになってるよ」
今のシオは普通に男の時に着ていたTシャツを着ていた。女の子になった今では、それはサイズも合わずにけっこうぶかぶかになっている。それで、肩がずり落ちてしまっていて、胸のところが見えそうになっていたのである。
シオは目をぱちぱちさせていたが、やがてハッと頰を赤くして言った。
「・・・・・・えっち」
「ばっ──男が胸を見られそうになったくらいで恥ずかしがるな!!」
「い、いや今は女の子だし、そう思ったらなんか急に恥ずかしくなって・・・・・・」
「それなら同性同士なんだし問題ないでしょ!」
しかし・・・・・・
(まさかこいつがこんなに可愛くなるとは・・・・・・)
ユキは戸惑っていた。まさか、幼馴染として昔から一緒に遊んだりとかしていたシオが、突然こんな可愛らしい女の子になるなど、予想していなかったのである。
「・・・・・・」
「な、なに?」
ユキは突然じっとシオのことを見つめ出した。シオが不思議に思って問い返すが、黙ったままだ。そして、ユキは黙ったままシオの頭をわしゃわしゃと撫でくりまわし始めた。
「・・・・・・」
「ちょ、やめてくれよー!!」
ユキがしばらく撫でくりまわしてから手を離すと、「全くもう・・・・・・」と言いながら自分の乱れた髪を直した。その姿もなんだか可愛らしい。
(ギャップがすごい・・・・・・)
元々男の中の男、という感じではなかったものの、年相応にはちゃんと男らしかったシオだ。運動もしていたし、体つきもけっこうしっかりしていた。
そんなシオが、今は護ってあげたくなるような細身の女の子になっている。抱きしめたら折れてしまいそうなくらい細い体躯を見た時に、男の時とのギャップに思わずくらっときてしまった。
「うーん、股の間にあるべきものがついてないとやっぱり落ち着かないな・・・・・・」
シオはソワソワしながらそんなことを呟いていた。
「ね、シオ。ちょっと立ち上がってみて」
「え? いいけど・・・・・・」
シオは今までベッドの上に座っていたが、ユキに言われて立ち上がった。
「・・・・・・あれ? ユキ、お前こんな背高かったっけ? 伸びた?」
違う。ユキの背が伸びたのではなく、シオの背が縮んだのだ。
今まで見上げるだけだったシオが、今では自分を見上げるようなになっている・・・・・・。
上目遣いでこちらを見上げてくる、今はか弱くて可愛らしいシオ。
ユキは、今までに感じたことのないタイプのときめきを感じていた。
◇
「わー、ほんとに女の子になってる! かわいいー!」
「ね、ね、お菓子食べる?」
さて、女の子になったシオは休日明けの学校で・・・・・・めちゃくちゃに可愛がられていた。
「え、えっと・・・・・・」
シオは大勢の女子たちに取り囲まれ、頭を撫でられたりお菓子をもらったりしていた。初めての経験に、シオはただ困惑するばかりだ。
「あ、ありがとう・・・・・・」
シオは、とりあえずお礼を言って素直にお菓子を受け取って食べ始めた。男だった時はバクバクと食ってしまっただろうが、今は口も小さくなっているので普段より食べた方が大人しくなって可愛らしくなっている。小動物みたいで、なんだか庇護欲が掻き立てられる。
「「「かわいい〜」」」
女子たちはその様子にメロメロである。シオとしては、みんながなにをそんなにかわいいと言っているのかよくわからない。
「・・・・・・」
一方、その様子を見ているユキは、なんだかモヤモヤしていた。シオが女子にちやほやされているのが、少し面白くない。ただ、なんでそんな感情になるのかはよくわからなかった。
・・・・・・
まあそんなこんなで、ちょっと何かするたびに何故かクラスメイトのみんなを魅了していったシオは、めちゃくちゃに疲れてしまっていた。
「はー、今日は疲れた・・・・・・」
「シオ、今日はいっぱい女の子にちやほやされてたもんねー」
「? ユキ、ひょっとしてなんか怒ってる?」
「別にー」
と、そんなふうな会話をしながら、もう放課後になった学校の廊下を2人で歩いていた時のことである。
「・・・・・・ちょ、シオ! 危ない!」
「え?」
シオは気づかずに廊下に落ちていた粘土の像を踏んでしまっていた。美術の時間に誰かが作った物が、どういうわけか廊下に落ちていたのである。それをシオはグニュっと踏んでしまった。
「うわっ!?」
当然、バランスを崩す。倒れゆくシオの体。シオの顔がどんどん床に近づいていく。思わず目を瞑った。
「・・・・・・?」
だが、予想された衝撃はやってこなかった。不思議に思って目を開けると・・・・・・
「もう、ちゃんと足元見て歩かなきゃダメじゃん」
ユキが、嗜めるようにそう言った。ユキがお腹の辺りを抱えるようにしてシオを受け止めていたのである。
ユキは、シオの耳元に身を寄せるとやや低めの声でこう囁いた。
「大丈夫?」
「ぴゃっ」
「え!? ちょ、なに、急に変な声出さないでよ」
「い、いやいきなり耳元で囁くから・・・・・・」
「あ、ご、ごめん・・・・・・」
「とりあえず・・・・・・はい」
ユキはシオへ手を差し出してくれる。それを取って立ちあがろうとしたが、
「いたっ!」
どうやら、足を捻ってしまったらしい。足首が痛んだ。
「あー、捻っちゃったか」
「そうみたい・・・・・・」
「それじゃ、私に任せて」
「え?」
ユキはにかっと笑うと、
「よっこいせっと」
シオの体を持ち上げた。
しかも、ただ持ち上げただけではない。お姫様抱っこをしてきたのである。
「ちょ、ユキ!?」
シオがびっくりしたように声を上げると、ユキは笑いながら言った。
「ふふふ・・・・・・やっぱり! 今のシオなら、軽いから私でも持ち上げられるね! 男のままだったらこうはいかないなー」
そして、こう言った。
「いいから大人しく運ばれなよ。こんな時ぐらい、私を頼ってみてもいーんじゃない?」
・・・・・・その言葉に甘えて、大人しくお姫様抱っこで保健室へと運ばれる。
(あれ? こいつって・・・・・・こんなに頼もしかったっけ?)
運んでくれているユキに、シオはかつてない頼りがいと安心感を覚えた。今は自分の方が背も低くなってるし、力も弱くなってるからだろうか。シオも、ユキに感じたことのない類のときめきを感じたのである。
これは、シオが高校生で、ユキがその幼馴染だった世界線でのお話・・・・・・。




