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TSしたからバ美肉ということにして配信をしてみた  作者: 大崎 狂花


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12/19

第12話 制服放課後配信/ファン再び

 夕陽が彩る放課後の教室を舞台として、画面の中のキョウカは笑顔でこう言った。


「見て見て、制服!」

 

 シオは制服を着ていた。そう、今日の配信は放課後制服雑談である。


『うおおおおお、制服!』


『あの動画で見た衣装だ!』


 そう、あのバレンタイン動画でシオが来ていた衣装である。セーラー服だ。


「サンタ服とかは季節限定みたいな感じだけど、制服は普通の配信でも使えるからね! 着てみたんだ!」


『かわいいだろ? こいつ、俺の幼馴染なんだぜ・・・・・・?』


『懐かしいなあ。子供の時、こいつと俺結婚の約束したんだぜ』


『そういえば、小学校のころよく怖い映画とか見ておねしょしてたよな』


「はいはい、ない記憶を捏造するのはやめてくださいねー」


 そういえば、とシオは視聴者に聞いた。


「そういえばさ、この前の動画は見てくれた? よかったかな?」


『めっっっっっちゃくちゃよかった』


『死ぬ前に見る幸せな幻覚かと思ったよ』


「死ぬな死ぬな・・・・・・」


 まあ、コメントを見る限りけっこう好評だったみたいだ。


『いやあ、最高のプレゼントだったよ』


「あ、ほんと? よかったー。いや、実はけっこう不安だったんだよね」


『そうなの?』


『これ以上ないくらいよかったんだけど・・・・・・』


「いやー、三十代おじさんがセーラー服着るのは流石にキツいかと思ってさあ。ちょっと不安だったんだよね」


『そんな、メスガキとかママとかになっといて何を今更・・・・・・』


『おじさんのセーラー服がキツいどころか死ぬほどかわいいなんて、生まれて初めてだよ』


『ほう、三十代美少女おじさんのセーラー服姿か・・・・・・興奮してきたな』


『それはもう情報に興奮してないか?』


「ところで・・・・・・みんなは俺以外からチョコもらったの?」


 唐突に刺された。


『ぐっ・・・・・・』


『え? 別にもらったけど? ちゃんともらったけど?』


『俺はおじさんにさえもらえれば別にいいや。他の女の子からはもらえなくても』


「えー? もう、ちゃんと彼女作りなよー」


 シオはふふっと笑いながらそう言う。そして、幼馴染っぽい口調でこう言った。


「まあでも、幼稚園の頃からずっと彼女の代わりにチョコをあげてきたわけだし・・・・・・その、だから・・・・・・これからも彼女の代わりになって、チョコあげてやってもいいかなー・・・・・・なんて」


 そんなことを言うシオの頬は、赤らんでいる。


『この娘絶対俺のこと好きだよね?』


『幼馴染おじさん、良すぎる・・・・・・』


『こんな青春がしたかった』


『そういやさ、おじさんはチョコもらったことあるの?』


「えっと、高校生の時に、クラスの男子全員に配られるやつを・・・・・・」


『あっ・・・・・・』


『もういい。その先は言わなくてもわかる。言わなくていい。俺も同じだから・・・・・・』


『最近は? ユキお母さんとかからもらったりしなかったの?』


「もらわなかったかな。逆にあげた」


『なんで?』


『やっぱりおじさん女の子だから、あげる側なんだね・・・・・・』


『おじさんがお酒入りチョコをうっかり食べちゃって酔っ払う回はどこですか?』


「ありません」


 さて、このシオのセーラー服衣装はSNSでそこそこバズった。視聴者の誰かが画像付きで、『これが三十代おじさんのセーラー服姿です』と投稿したのである。その文言と画像が全く合ってないというのでバズったのである。


 それで気になった人たちが配信を見に来て、無事性癖を破壊されたという。


「ひゃっ! びっくりしたー・・・・・・」


『こんなかわいいおじさんがいるわけないだろ!』


『なんか俺、変な扉開きそう・・・・・・』


『ようこそ、こちら側の世界へ』


 また仲間が増えたね!


 ◇


「え、やば。かわいすぎる・・・・・・」


 どこにでもいる一般中学生女子、谷々キュウは自室にて思わずそう呟いた。谷々キュウ。皆さんは憶えているだろうか。本屋でシオと出会ったあの女の子である。詳しくは第9話を見よう!


 彼女には推しがいる。その推しというのは──


「おじさんのセーラー服姿って正直キツくない?」


 そんなことを言っているのに、キツいどころか死ぬほどかわいいという奇跡の美少女おじさん、ラノベ作家兼Vtuberの無門キョウカである。


 キュウはこのキョウカのファンなのである。最近はキョウカのライトノベルも読み始めて、さらにファン度も増している。


 今日の配信も良かった。


「ほんとにかわいい・・・・・・」


 そう呟きながらキョウカの配信を楽しみ、癒された。これがキュウの最近の生きがいになっている。


 さて、キュウは配信を見終わり布団の上に仰向けになるとある人物の記憶が思い浮かんだ。


「山本さん・・・・・・」


 本屋で会った同じキョウカファンの、山本さんのことである。


 あの日は楽しかった。キュウの周りにはVのファンもライトノベルを読んでいる友達もいないので、そういうことについて心ゆくまで話す機会がないのだ。だから、キョウカのことについて語り合った(キュウが一方的に語っていただけだった気もするが)あの日は、思いがけずすごく楽しい休日となった。


 そして、さらに思い出す。山本さんの反応の感じ、声・・・・・・あれは・・・・・・


「なんか、キョウカさんに似てたな・・・・・・」


 そう、山本さんという人間は、なんというかキュウの推しである無門キョウカに似ていた。よく似ていた。すごく似ていた。


「というか、ひょっとして本人なのでは・・・・・・?」


 いやいや、違う違う。そんなわけない。そんなわけはないと思うのだが・・・・・・


「・・・・・・」


 いや、やっぱりその疑問を拭い去れない。ひょっとして本人なのでは? と思ってしまう。声も反応も見れば見るほど聞けが聞くほど一致してくる。


「よし確かめよう!」


 やっぱり気になる。こうなれば確かめるしかない。そう決意して、キュウは山本さんと出会ったあの本屋へ行くことにした。


 ◇


「・・・・・・いた!」


 運良く、キュウは本屋にシオを見つけた。シオはちょくちょく本屋にいるのだ。だから見つけやすいと言える。

 

 で、キュウは早速シオに声をかけようとした。かけようとしたのだが・・・・・・。


(あ、あれ? なんかすっごい緊張する・・・・・・)


 ひょっとしたらこの人は推しかもしれない。それを思うとなんだかすっごく緊張してきた。


(い、いけないいけない! まだキョウカさんだって確定したわけでもないのに・・・・・・確かめるためにもちゃんと勇気を出して話しかけないと!)


「あ、あの・・・・・・」


「ん? ・・・・・・あ、あの時の・・・・・・」


 どうやら憶えていてくれたみたいである。そして、声がやっぱり似ている。


「あの先日はありがとうございました。私の推し話に付き合っていただいて・・・・・・」


「ああ、そんなそんな。別に全然大丈夫ですよ。同志として、推し話くらいいくらでも付き合います」


 シオはにこやかにそう言って、ぼそっと呟いた。


「それに、ちょっと嬉しかったし・・・・・・」


「? なにか言いました?」


「いえ、なんでもないです」


「そ、それでその、えっと・・・・・・」


(緊張しすぎて変なこと言わないように、変なこと言わないように・・・・・・)


 キュウは目をぐるぐるにしながら言った。


「あ、あの! 私と付き合ってもらえませんか!?」


「え?」


 しっかりと変なことを言ってしまいました。


 ・・・・・・


「あ、あの、すいません・・・・・・今日も私の推し話に付き合ってくれませんか、と言いたかったんです・・・・・・」


「あ、ああ、大丈夫ですよ。ちょっとびっくりしましたけど、ちゃんとわかっているので・・・・・・」


 顔を真っ赤にしたキュウと、シオが向かい合って喫茶店にいる。


 また、キュウが推しについて話したいと言って、シオが快く承諾してくれたのである。


「ほんとにすいません、また付き合わせてしまって・・・・・・」


「い、いえいえ。俺も一応キョウカ推しの同志なので、別に大丈夫ですよ・・・・・・」


 と、言いながらもシオはちょっと不安であった。前回めちゃくちゃに褒められて、家に帰ってもお湯に入っても顔の火照りが取れなかったのである。今回もめちゃくちゃにされるんじゃないかと思って不安なのだ。ただ、中学生の女の子の頼みを無碍には出来ないので、またついついこんなところまでノコノコとついてきてしまったのだ。


 それに、やっぱり褒められるっていうのはちょっと嬉しいし・・・・・・


 で、キュウの方はというともちろん語りたかったというのもあるけれど、この山本シオが本当にキョウカなのか確かめたくて今回こうして誘ってみたのである。


「そういえば、バレンタインのあの動画はすごかったですよね。めちゃくちゃに良くて・・・・・・急にあんな高濃度の青春を投入されて、私心臓が止まるかと思いましたよ!」


 まずは語る。これは本心からの語りだ。ただ、本心から語りつつも、キュウはシオの反応を見ていた。


 キュウのこの語りを聞いたシオはというと・・・・・・


(すっごい嬉しそうにしてる・・・・・・)


 シオはめちゃくちゃ嬉しそうにしていた。口角が上がりまくっていた。


 いや、本人は抑えているつもりなのだ。ちゃんとクールに受け止めているつもりなのだ。しかし、抑えきれなくてうっかりにやついてしまっているのである。


(かわいい・・・・・・)


 嬉しそうな顔がとても可愛くて、キュウはちょっと見惚れてしまった。


(・・・・・・はっ! いけないいけない! 見惚れてる場合じゃなくて、ちゃんと確かめないと・・・・・・嬉しそうにしてるってことはやっぱり本人?)


 けど・・・・・・


(けど、本人だとしてこんなふうにあからさまに嬉しそうにするかな? だとしたら、単に推しを褒められて嬉しいだけなのかな・・・・・・?)


 まさかシオがキョウカ本人で、うっかり嬉しさを顔に出してしまっているとは夢にも思わないキュウである。


(うーん、まだ確証が持てないな・・・・・・)


 と、キュウが悩んでいた時。


「お待たせしましたー」


 店員さんが来た。どうやら、先ほど注文したものが来たようである。


 キュウはケーキにカフェラテ、シオはコーヒーだった。キュウが、この喫茶店のコーヒーは美味しいらしいですよとおすすめしたのだ。


(よし)


 キュウはシオに、シュガーとコーヒーフレッシュを差し出すと


「使いますか?」


 と言った。しかし、シオはそれを断った。


「あ、ありがとうございます。ですが、俺はブラックのままで大丈夫です」


「あっ、ブラック飲めるんですね」


 キュウがそういうと、シオはドヤ顔でこう言った。


「そうなんです! 俺はブラックが飲めるんですよ! なかなかすごいでしょ?」


 ふふーんといった感じのシオのドヤ顔中のドヤ顔を見た時に、キュウは直感的に思った。


(・・・・・・キョウカさんだ!)


 コーヒーをブラックで飲めることに、こんなドヤ顔中のドヤ顔をするなんて、キョウカ以外にありえない。というか・・・・・・


(なにこのかわいい生き物・・・・・・)


 コーヒーをブラックで飲めることにここまでドヤ顔するシオが可愛すぎた。なにこれ可愛すぎる。唐突にこの可愛さを喰らうのはやばい。死ぬ。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です。ちょっと奇襲的可愛さに身悶えしてしまって・・・・・・」


 なんかもうキョウカ確定みたいな感じあるけど、まだわからない。もう少し質問を続けよう。


 キュウはその後もそれとなく質問を続けた。好きなキャラのこととか最近気になってることとかそう言ったことについて。その答えのどれもがキョウカが配信で言ったことと一致していた。そんなバレバレなことある?


(はーっ、バレバレでかわいい・・・・・・本人はちゃんと隠してるつもりなのかな・・・・・・)


 キュウはその可愛さに悶えていたわけだが、最後に確信的な質問を一つした。


「そういえば、ずっと気になってたんですけど・・・・・・えっと、失礼な質問かもしれないんですが、山本さんの性別って・・・・・・」


「ああ、男ですよ。おじさんです」


 やっぱり。これで確定した。


 キョウカおじさん以外にこんなにかわいいおじさんが、この此岸に2人といるわけがないのだ。QED. 証明されちゃったね・・・・・・。


 そう。つまりは確定。この人は本物。本物の・・・・・・


(本物の、キョウカおじさん・・・・・・)


 そう、確定してまったのだ。目の前に座るこの人物が、自身の最推しであると。


(や、やばい。リアルでもこんなにかわいいなんて・・・・・・! というか、今私推しとしゃべって──!?)


 キュウは緊張して混乱してきた。推しであると認識する前はけっこうグイグイいけたわけだが、認識してしまったらこうなるのは当たり前だ。


 キョウカはキュウの推し。しかも最推しと言っていい。そんなキョウカと喫茶店で、一対一で向かい合って喋ってるなんて──


(そんなの、夢すぎる・・・・・・!)


 キュウはそれを認識してしまった結果、すっかり混乱してしまった。そして、唐突に目をぐるぐるにしてあわあわし出したキュウを、シオは心配して声をかけた。


「あ、あの、大丈夫ですか? キュウさん」


「はえっ!?」


(やば。推しが私を下の名前で・・・・・・!?)


「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!? ひょっとして体調でも悪いんじゃ・・・・・・」


 シオは心配そうにそう言うと、ちょっと立ち上がってキュウの顔を覗き込んできた。


 シオは人間離れした美少女だ。顔面だって天上的に綺麗だ。さらに、キュウにとっては最推しの顔面である。


 それがもう目と鼻の先、いわゆるガチ恋距離にあって自分のことを心配そうに覗き込んでいる。


「ひゃ、ひゃい。だ、大丈夫れふ・・・・・・」


「え、あの、なんか目がハートになっちゃってるんですけど、ほんとに大丈夫なんですか?」


 大丈夫ではなかった。死ぬかと思った。いやもう死んでいて、ここは天国なのかもしれない。こんな状況、天国以外の何物でもない。


 いけない、ここにいては命に関わる。


「あ、あの! もうそろそろ帰りましょうか!」


「え、ああ、はい」


 キュウはそう言って立ち上がると慌てて帰ろうとした。このままだと推しに悶え死にさせられるかもしれなかったから。


 キュウは立ち上がるとこの喫茶店の勘定のことも忘れて、超速で入り口へと向かおうとした。


 しかし、よほど慌てていたのだろう。


「あっ──」


 なにもないところでつまづいてしまった。


 倒れゆく体。近づく床。このままでは転んでしまう。慌ててなんとか体勢を立て直そうとした、その時。


 トン、と。


 キュウのお腹のところを、そっと優しく支えられた。


「危ない! ・・・・・・大丈夫かな?」


 シオだ。シオが腕でキュウのことを受け止めてくれたのだ。


 シオはそっとキュウのことを抱えるようにして助け起こしながら、耳元でぼそっと呟いた。


「大丈夫ですか? 急ぐと、危ないですよ」


 ──さて、この日の前の晩シオはイケメン女子のASMRを聴きながら眠りについていたので、それが刷り込まれていたのかもしれない。ついうっかり口を滑らせてキュウのことをこんなふうに呼んでしまった。


「ね? お姫様」


 シオはイケメン女子好きを拗らせた結果、自分自身がイケメン女子になってしまったのだろうか。シオのこのイケメン生ASMRは破壊力がものすごかった。それはもうものすごかった。


「あの・・・・・・すいません、腰が抜けちゃいました」


「え!?」


 腰が抜けてしまって、キュウはもう生まれたての子鹿のようになってしまった。


 中学生女子には、最推しからの至近距離お姫様呼びはちょっと刺激が強すぎたのかもしれない。強烈な体験として脳みその底の底にまで刻みつけられてしまった。


 ・・・・・・で、この日以降キュウはシオの配信を見るとかわいいなあと思うだけでなく、胸がすごくドキドキしてしまうようになった。


 順調にガチ恋へとランクアップしかけているのかもしれない・・・・・・。

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