追放された勇者が転生して冒険者ギルドを立ち上げたら、元仲間の転生者が大手ギルドのライバルになった件
追放された勇者が転生して冒険者ギルドを立ち上げたら、元仲間の転生者が大手ギルドのライバルになった件
俺の名前は村田拓海。18歳の新米冒険者だ。
でも、それは表向きの話。
本当の俺は、異世界で勇者パーティのサポート役として戦っていた佐藤健司だった。
仲間たちに裏切られ、追放された後、魔物に襲われて死んだ男。
気がつくと、俺は現代日本で生まれ育った普通の高校生として18年間を過ごし、ある日突然異世界に召喚されていた。
「今度こそ......」
俺は手にした冒険者登録証を見つめた。
前世では仲間に裏切られて終わったが、今度は違う。
今度は自分の理想を実現してみせる。
王都リベルタスの冒険者ギルド街。
ここには大小様々なギルドが軒を連ねているが、一番目立つのは街の中心にそびえる「黄金の翼」ギルドの建物だった。
「すげぇ建物だな」
隣を歩く新人冒険者の男が感嘆の声を上げる。
「でも、俺たちみたいな新人は相手にしてもらえないだろうな」
そうだ、大手ギルドは実績のある冒険者しか受け入れない。
新人は小さなギルドで経験を積むか、個人で活動するしかない。
でも、俺には前世の経験と、現代日本で学んだ経営の知識がある。
「よし、自分でギルドを立ち上げよう」
俺は決意を固めた。
今度は誰にも裏切られない、本当に仲間を大切にするギルドを作る。
街の外れに、空き家になった古い建物を見つけた。
手持ちの金を全て使って借りることにした。
「ここが俺たちのギルドハウスになる予定です」
案内してくれた大家のおじさんが苦笑いした。
「君、一人でギルドを作るつもりかい?」
「はい。必ず成功させてみせます」
「若いって素晴らしいねぇ。頑張りなさい」
建物は確かにボロボロだったが、立地は悪くない。
大通りからも近く、初心者向けの簡単な依頼が多い商業区域にも近い。
掃除を始めていると、建物の奥から古い木箱を見つけた。
「これは......」
箱の中には古い書類と、見覚えのある紋章が刻まれた印章があった。
「『蒼き狼』ギルド......」
書類を読んでいくと、驚愕の事実が分かった。
この建物は、かつてこの国で最も有名だった冒険者ギルドの跡地だった。
そして、そのギルドの創設者の名前は......
「村田蒼介......まさか」
俺と同じ苗字。
しかも、この印章には俺が子供の頃から首にかけているペンダントと同じ紋章が刻まれている。
「俺、もしかして......」
その時、建物の入り口から声が聞こえた。
「すみません、誰かいらっしゃいますか?」
振り返ると、美しい女性が立っていた。
金髪を後ろで結び、魔法使いのローブを着ている。
年は俺と同じくらいかな。
「はい、何でしょうか?」
「あの、こちらで新しいギルドを立ち上げるって聞いたのですが......」
「え?もう噂が?」
「大家さんから聞きました。私、神崎アリスと申します」
アリスさんが丁寧に頭を下げた。
「村田拓海です。確かに、ここでギルドを立ち上げる予定ですが......」
「もしよろしければ、参加させていただけませんか?」
俺は驚いた。まだ何も始まっていないのに、もう仲間が?
「アリスさんは、どうして俺のギルドに?」
「実は、大手ギルドの面接を受けたのですが......」
アリスさんが困ったような表情をする。
「『女は足手まといだ』と言われて断られました」
「そんな......」
「他のギルドも似たような感じで。でも、諦めたくないんです」
アリスさんの目に、強い意志の光があった。
「私の家は没落貴族で、家を再興するためには冒険者として成功するしかありません」
「分かりました。僕でよければ一緒にやりましょう」
俺は迷わず答えた。
前世では仲間に裏切られたが、今度は本当に信頼できる仲間を作りたい。
「本当ですか?」アリスさんの顔がぱあっと明るくなった。
「はい。でも、最初は大変かもしれません」
「覚悟しています」
こうして、俺たちの小さなギルド「新生蒼き狼」が始まった。
最初の一週間は、ひたすら掃除と修理。アリスさんは魔法で汚れを落としてくれて、俺は前世の知識で効率的な作業配分を考えた。
「拓海さんって、すごく段取りが良いですね」
「昔から、そういうのは得意で」
「きっと良いギルドマスターになりますよ」
アリスさんの言葉に、胸が温かくなった。
前世では、こんな風に認めてもらったことはなかった。
一週間後、ようやくギルドハウスらしくなった建物で、俺たちは最初の依頼を受けた。
「薬草採取の依頼ですね」
「ええ。でも報酬は少ないです」
新人ギルドに回ってくるのは、こういう地味な依頼ばかり。
でも、俺には計画があった。
「アリスさん、この依頼、普通にやったら半日かかりますが......」
「はい」
「俺の作戦に従ってもらえれば、2時間で終わらせられます」
「2時間?そんなことできるんですか?」
俺は現代の効率化手法を応用した作業計画を説明した。
エリア分割、時間管理、収集ルートの最適化。
「すごい......そんな方法があったなんて」
結果、本当に2時間で依頼は完了。
しかも、通常より多くの薬草を集めることができた。
「拓海さん、天才です!」
アリスさんが目を輝かせている。
「これなら、他の依頼も効率的にこなせますね」
その日から、俺たちの評判は急速に上がっていった。
同じ依頼を他のギルドの半分の時間で、より高い品質で完了する「新生蒼き狼」。
「君たちのギルド、すごい効率的だって評判になってるよ」
依頼主の商人が嬉しそうに言ってくれた。
「ありがとうございます」
「実は、他にも依頼したいことがあるんだ」
依頼が次々と舞い込むようになった。
でも、俺とアリスさんの二人だけでは限界がある。
「新しいメンバーを募集しましょうか?」
「そうですね。でも、どういう人に来てもらいたいですか?」
俺は前世の経験を思い出しながら答えた。
「技術よりも、人格を重視したいです」
「人格?」
「強くても、仲間を裏切るような人はいらない。
多少未熟でも、仲間を大切にする人と一緒に働きたいんです」
アリスさんが優しく微笑んだ。
「拓海さんらしいですね」
募集の貼り紙を出すと、何人かの冒険者が面接に来てくれた。
「俺はガルドだ。戦士をやってる」
「私はリンです。盗賊ギルドからの転職希望です」
二人とも、大手ギルドの面接で落とされた新人だった。
でも、話をしてみると、とても良い人たちだった。
「俺たち、実力はまだまだですが......」
「大丈夫です。一緒に成長していきましょう」
こうして、俺たちのギルドは4人になった。
でも、その頃から気になることがあった。
「『黄金の翼』ギルドが、俺たちの依頼主に圧力をかけてるって噂があります」
リンが心配そうに報告してくれた。
「圧力?」
「『新生蒼き狼』に依頼を出すなって」
俺は嫌な予感がした。
ただ、大手ギルドが新興ギルドを潰すなんて、よくある話だ。
「ギルドマスターは誰なんでしょうか?」
「白金レオナルドって人らしいです。
まだ若いのに、すごい実力者だって」
白金レオナルド......まったく聞き覚えのない名前だが、なぜか嫌な予感がする。
その日の夕方、俺たちがギルドハウスで今後の作戦を練っていると、立派な馬車が建物の前に止まった。
「お邪魔します」
現れたのは、金髪で整った顔立ちの男性だった。
高級な装備に身を包み、威厳のあるオーラを放っている。
「私、『黄金の翼』ギルドのマスター、白金レオナルドです」
その瞬間、俺の血が凍った。
目の前にいるのは、前世で俺を裏切った勇者パーティのリーダー、レオナルドだった。
転生していたのは、俺だけじゃなかった。
「村田拓海さん、でしたね」
レオナルドが俺を見つめた。
その目には、確信に満ちた光があった。
「お話があります」
レオナルドの提案で、俺たちは人気のない場所で向き合っていた。
アリスさんたちには「ちょっと用事がある」とだけ伝えて。
「久しぶりだな、佐藤健司」
ついに、本名で呼ばれた。
「やはり、レオナルドか」
「転生していたのは、俺だけじゃなかったようだな」
レオナルドが皮肉っぽく笑った。
「それにしても、また冒険者をやってるとは。懲りないな」
「今度は違う」
俺は拳を握った。
「今度は、誰にも裏切られない仲間を作る」
「仲間?」レオナルドが嘲笑した。
「お前はまだそんな甘いことを言ってるのか」
「甘い?」
「冒険者の世界は実力が全てだ。綺麗事では生きていけない」
レオナルドの言葉に、前世の記憶が蘇った。
俺は勇者パーティでサポート役をしていた。
戦闘では目立たないが、仲間の回復や補助、戦略の立案などを担当していた。
でも、レオナルドたち主力メンバーからは次第に邪魔者扱いされるようになった。
『健司の回復では間に合わない』
『もっと強い魔法使いを入れよう』
『健司は足手まといだ』
そして、ある日突然告げられた。
『お前はパーティを抜けろ』
『俺たちの足を引っ張っている』
『もう用済みだ』
追放された俺は、一人で旅を続けていたが、ある森の中で魔物に襲われて死んだ。
「あの時、お前が俺を追放したことを忘れたとでも思ってるのか?」
「あれは仕方なかったんだ」レオナルドが言い訳した。
「お前の実力では、俺たちについてこれなかった」
「仕方ない?」
俺は怒りを抑えながら言った。
「俺がどれだけパーティに貢献したと思ってるんだ?」
「貢献?回復魔法が少し使えただけじゃないか」
レオナルドの認識に、俺は愕然とした。
戦略立案、情報収集、仲間のメンタルケア。
俺がやっていた仕事の価値を、彼は全く理解していなかった。
「そんなことより」レオナルドが話題を変えた。
「お前のギルド、なかなか面白いことをやってるじゃないか」
「何のことだ?」
「効率化、最適化......お前、転生で身に着けた現代の知識を使ってるだろう?」
俺は警戒した。
レオナルドも転生者なら、現代の知識を持っている。
「お前も現代人だったのか?」
「俺は前の人生でIT企業の社長をやっていた」
レオナルドが得意げに言った。
「お前なんかより、はるかに経営の経験がある」
IT企業の社長......それなら確かに、俺より経営知識は上かもしれない。
「そこで良い提案がある」
「提案?」
「お前のギルドを、俺のギルドに吸収合併させてやる」
レオナルドが上から目線で言った。
「条件も悪くないぞ。お前は幹部として処遇してやる」
「断る」
俺は即答した。
「また同じことの繰り返しじゃないか」
「同じこと?」
「結局、お前の下で働けってことだろう?」
レオナルドの表情が変わった。
「お前、まだ俺を恨んでるのか?」
「恨んでない。でも、信用はしない」
「そうか」レオナルドが冷たく笑った。
「なら、商売敵として扱わせてもらう」
「上等だ」
「お前のギルドなんて、俺が本気を出せばすぐに潰せる」
「やってみろ」
俺は負けるつもりはなかった。
前世では個人の力で負けたが、今度はチーム戦だ。
レオナルドが去った後、俺はアリスさんたちに事情を説明した。
もちろん、転生のことは隠して。
「『黄金の翼』ギルドが、俺たちを敵視してるようです」
「どうしてですか?」アリスさんが心配そうに聞く。
「俺たちの効率的な手法が、彼らの商売の邪魔になってるのかもしれません」
「じゃあ、これから厳しくなりますね」
ガルドが顔を曇らせた。
「でも、負けません」
俺は仲間たちを見回した。
「俺たちには、大手ギルドにはないものがある」
「何ですか?」
リンが興味深そうに聞く。
「一人一人の仲間を大切にする心です」
「拓海さん......」
アリスさんが感動したような表情をする。
「俺たちは、お互いを信頼し、支え合って戦う。それが俺たちの強さです」
その日から、『黄金の翼』ギルドからの圧力が露骨になった。
俺たちの依頼主に横やりを入れたり、俺たちが狙っている依頼を高額で横取りしたり。
「くそっ、また依頼を取られた」
ガルドが悔しそうに拳を握った。
「大丈夫です」
俺は冷静だった。
「相手が焦ってる証拠です」
「焦ってる?」
「本当に俺たちが脅威じゃないなら、こんなことはしない」
俺は現代で学んだマーケティングの知識を活かして、対抗策を考えた。
「俺たちの強みは何でしょう?」
「効率性?」アリスさんが答える。
「それもありますが、一番は『親身になって相談に乗ること』です」
大手ギルドは効率重視で、依頼主とのコミュニケーションが希薄になりがち。
でも、俺たちは時間をかけて依頼主の要望を聞き、最適な解決策を提案していた。
「今度から、アフターフォローも充実させましょう」
「アフターフォロー?」
「依頼完了後も、何か困ったことがあったらいつでも相談に乗って、次の依頼に繋がりやすくしましょう」
この戦略は大当たりだった。
一度俺たちに依頼した人は、リピーターになってくれることが多くなった。
「『新生蒼き狼』さんは、本当に親切ですね」
「また次回もお願いします」
口コミで評判が広がり、依頼は増える一方だった。
でも、それをみていたレオナルドも黙ってはいなかった。
「村田さん」
ある日、俺たちのもとに『黄金の翼』ギルドの使者がやってきた。
「マスターからの挑戦状です」
「挑戦状?」
「来月開催される『ギルド対抗戦』への参加要請です」
ギルド対抗戦。
年に一度開催される、ギルド同士の実力を競う大会だった。
「優勝ギルドには多額の賞金と、王室からの特別認定が与えられます」
「それで?」
「マスターは『新生蒼き狼』との直接対決を望んでおられます」
使者が挑戦状を置いて行った。
「どうしましょう、拓海さん?」
アリスさんが心配そうに聞く。
「参加します」
俺は迷わず答えた。
「でも、相手は大手ギルドですよ」
「大丈夫です。俺たちには、秘策があります」
実は、この一ヶ月で俺は重要な発見をしていた。
ギルドハウスで見つけた古い書類を詳しく調べた結果、驚くべき事実が分かったのだ。
俺の首にかけているペンダントは、伝説の冒険者ギルド『蒼き狼』の証だった。
そして、俺は創設者の直系の子孫だったのだ。
さらに、『蒼き狼』ギルドには秘伝の戦術書が残されており、そこには現代の軍事戦術にも通じる高度な戦略が記されていた。
「みんな、特訓を始めます」
「特訓?」
「俺たちには、先祖代々受け継がれた秘伝の戦術があります」
俺は戦術書の内容を現代風にアレンジして、チーム戦闘の訓練を開始した。
個人の実力では大手ギルドに劣るかもしれないが、チームワークなら負けない。
「すごいです、拓海さん」アリスさんが感嘆した。
「こんな戦術、見たことがありません」
「これが俺たちの切り札です」
一ヶ月後のギルド対抗戦まで、俺たちは必死に訓練を続けた。
ギルド対抗戦当日。
王都の闘技場には多くの観客が詰めかけていた。
「すごい人ですね」アリスさんが緊張した様子で呟く。
「大丈夫です。練習通りにやれば勝てます」
俺は仲間たちを見回した。
この一ヶ月で、みんなの実力は飛躍的に向上していた。
「『新生蒼き狼』の皆さん、準備はいかがですか?」
大会運営の職員が声をかけてきた。
「大丈夫です」
「それでは、第一回戦の相手をお知らせします」
「第一回戦?」
「ええ、今回は16ギルドが参加していますので、トーナメント形式です」
俺は安堵した。
いきなり『黄金の翼』ギルドと戦うわけじゃないのか。
「相手は『鉄の拳』ギルドです」
『鉄の拳』ギルド。
中堅レベルのギルドだが、戦士が多く、ボディーガードなど、力仕事系の依頼に定評があった。
「行きましょう」
闘技場に入ると、観客席から声援が聞こえた。
でも、ほとんどが相手チームへの応援だった。
「『新生蒼き狼』って、どこのギルドだ?」
「知らないなぁ。新参者じゃないか?」
「『鉄の拳』の圧勝だろうな」
俺たちは完全にアウェーだった。
でも、それでも良い。
アンダードッグの立場の方が、やりやすい。
「試合開始!」
審判の合図と共に、『鉄の拳』ギルドの戦士たちが突撃してきた。
「来ました!」ガルドが身構える。
「予定通り、フォーメーションB!」
俺の号令で、みんなが練習通りの動きを開始した。
まず、リンが敵の側面に回り込み、ガルドが正面で引きつける。
その隙にアリスさんが魔法で支援し、俺が全体の指揮を取る。
「なんだ、あの動きは?」
観客席がざわめいた。
俺たちの連携は、他のギルドとは明らかに違っていた。
「まるで軍隊みたいな統率力だ」
15分後、俺たちは完勝していた。
「『新生蒼き狼』の勝利!」
観客席から驚きの声が上がった。
「すごいじゃないか、あのギルド」
「戦術が洗練されてる」
「次の試合が楽しみだ」
第二回戦、第三回戦も同じように勝ち進んだ。
俺たちの評判は大会中にどんどん上がっていった。
そして、ついに決勝戦。相手は予想通り、『黄金の翼』ギルドだった。
「よく、ここまで来たな」
控室でレオナルドが挨拶に来た。
「お前のチーム戦術、なかなか面白い」
「ありがとう」
「でも、決勝は違う。俺の本気を見せてやる」
レオナルドが不敵に笑った。
「楽しみにしてる」
俺も負けずに笑い返した。
決勝戦開始30分前。
俺は仲間たちを集めて、最後の打ち合わせをしていた。
「相手の戦力は俺たちを上回ります」
「でも、それじゃあどうするんですか?」
リンが不安そうに聞く。
「諦めません。俺たちには最後の切り札があります」
俺はペンダントを取り出した。
「これは、伝説の冒険者ギルド『蒼き狼』の証です」
「え?」
「実は、俺はその創設者の子孫でした」
みんなが驚いた顔をした。
「そして、このペンダントには特別な力があります」
実は、戦術書を詳しく調べているうちに、ペンダントの真の力を発見していた。
それは、チーム全体の能力を一時的に向上させる古代魔法の触媒だった。
「みんなで輪になって、手を繋いでください」
俺たちが輪になってペンダントに触れると、温かい光が全身を包んだ。
「これは......」
「先祖の加護です。絶対に勝ちましょう」
決勝戦開始。
『黄金の翼』ギルドのメンバーは、確かに個人技術では俺たちを上回っていた。
でも、俺たちには完璧なチームワークと、先祖の加護があった。
「フォーメーションΩ!」
俺の指示で、今まで隠していた最高の戦術を発動した。
これは、戦術書の最後のページに記されていた、究極の連携技だった。
4人が一つの生き物のように動き、相手を翻弄する。
「何だ、あの動きは?」
レオナルドが困惑した表情をした。
彼の個人技術は確かに高いが、俺たちの連携の前では意味がなかった。
「これが......本当のチームワークだ」
俺は前世の思いを込めて戦った。
仲間を信じ、仲間に信じられる。これが俺の求めていた冒険者の姿だった。
30分後、俺たちは勝利していた。
「『新生蒼き狼』の優勝!」
観客席が大きく沸いた。
アリスさんが涙を流して俺に抱きついてくる。
「やりましたね、拓海さん!」
「みんなのおかげだ」
ガルドとリンも嬉しそうに肩を叩いてくれた。
「俺たちのギルドマスターは最高だ!」
表彰台で、俺は優勝カップを受け取った。
「優勝おめでとうございます」
国王から直接、特別認定証を授与された。
「『新生蒼き狼』ギルドを、王室公認ギルドとして認定いたします」
会場から大きな拍手が起こった。
その後、レオナルドが俺のもとにやってきた。
「参ったよ」
「レオナルド......」
「お前が正しかった。個人の力よりも、チームワークの方が強い」
レオナルドの表情は、前世とは全く違っていた。
素直な、清々しい顔をしていた。
「俺も、お前のような仲間を持てるギルドを作りたい」
「一緒にやらないか?」
俺は思い切って提案した。
「一緒に?」
「ライバルとして競い合うのも良いけど、協力すればもっと大きなことができる」
レオナルドが少し考えて、微笑んだ。
「面白い。前世では気づけなかった視点だ」
「今度は、本当の仲間になろう」
俺は手を差し出した。レオナルドも迷わず握り返してくれた。
ギルド対抗戦から一ヶ月が経った。
『新生蒼き狼』ギルドは一躍有名になり、連日依頼が舞い込むようになっていた。
でも、俺が一番嬉しいのは別のことだった。
「今日の依頼はどちらでしょうか?」
アリスさんが受付カウンターで笑顔で応対している。
「君たちのギルド、本当に親切だね」
「困った時はいつでも相談してください」
この光景。これが俺の理想だった。
仲間を大切にし、依頼主からも愛されるギルド。
「拓海、打ち合わせの時間だぞ」
声をかけてきたのはレオナルド。
今では『黄金の翼』ギルドと『新生蒼き狼』ギルドは業務提携を結び、大きな案件は合同で取り組んでいた。
「分かった」
会議室では、両ギルドのメンバーが集まっていた。
「今回の依頼は古代遺跡の調査です」
「危険度は高いですが、報酬も相当なものです」
レオナルドが資料を見せてくれる。
「俺たちだけでは難しいが、合同なら十分対応できる」
「そうですね」
俺は現代で学んだプロジェクト管理の手法を使って、作業分担を提案した。
「『黄金の翼』ギルドには戦闘を、俺たちは調査と記録を担当しましょう」
「それぞれの得意分野を活かすわけだな」
レオナルドが納得したように頷く。
最初はライバル関係だった俺たちだが、今では最高のパートナーになっていた。
レオナルドも前世の反省を活かして、メンバーを大切にするようになったし、俺も彼の実力と経験を素直に認めるようになった。
「それでは、来週から調査開始です」
会議が終わった後、アリスさんが俺に声をかけてきた。
「拓海さん、少しお時間ありますか?」
「もちろん」
二人でギルドハウスの屋上に上がった。
夕日が街を染めて、とても綺麗だった。
「実は、お話したいことがあるんです」
アリスさんが少し恥ずかしそうに俯いた。
「何でしょう?」
「私......拓海さんのことが好きです」
俺の心臓がドキドキした。
「アリスさん......」
「最初は尊敬する気持ちだったんですが、だんだん違う気持ちになって」
アリスさんが顔を上げて、俺を見つめた。
「拓海さんの優しさ、仲間を思う気持ち、すべてが素敵です」
「俺も、アリスさんのことが好きです」
俺は素直に答えた。
「本当ですか?」
「はい。アリスさんがいてくれたから、ここまで来れました」
アリスさんの目に涙が浮かんだ。
「良かった......」
俺はアリスさんの手を取った。
「これからも、一緒に頑張りましょう」
「はい!」
その夜、ギルドハウスではささやかなお祝いパーティーが開かれた。
「ギルドマスターとアリスちゃんの交際記念パーティーだ!」
ガルドが嬉しそうに乾杯の音頭を取る。
「おめでとうございます」
リンも笑顔で祝福してくれた。
「君たちを見ていると、希望が湧いてくるな」
レオナルドも心から祝福してくれた。
「俺も、いつかそんな関係を築きたい」
「きっと見つかりますよ」アリスさんが優しく言った。
「そうですね」レオナルドが空を見上げた。
「俺は前世では仕事ばかりで、恋愛を疎かにしていたから何も想像できないな」
「今度は大丈夫です」俺が励ました。
「レオナルドさんなら、きっと素敵な人と出会えます」
その後、パーティーは深夜まで続いた。
みんなで笑い、語り合い、本当に家族のような時間だった。
翌週から古代遺跡の調査が始まった。
「これは......すごい遺跡ですね」
アリスさんが感嘆の声を上げる。
「文献によると、数千年前の古代文明の遺跡らしい」
俺は調査記録を取りながら、遺跡の詳細を観察していた。
「拓海、こっちを見てくれ」
レオナルドが奥の部屋で何かを発見していた。
「これは......古代文字で何か書いてある」
「読めるか?」
「少し......『真の強さとは、一人の力ではなく、仲間との絆にある』」
俺は驚いた。
まるで俺たちに宛てたメッセージのようだった。
「古代の人も、同じことを考えていたんですね」
アリスさんが微笑んだ。
調査は一週間続き、貴重な古代の遺物をいくつか発見することができた。依頼主の学者たちは大喜びで、報酬も予定以上にもらえた。
「今回も大成功でしたね」
「ああ、君たちと組んで正解だった」
レオナルドが満足そうに言った。
「これからも、色々な依頼を一緒にやろう」
「はい」
調査から帰る途中、俺は一人で考えていた。
前世では仲間に裏切られ、一人ぼっちで死んだ。
でも今は、信頼できる仲間に囲まれて、愛する人もいる。
転生して本当に良かった。今度は絶対に、この幸せを守り抜く。
ギルドハウスに戻ると、新しい依頼の相談者が待っていた。
「『新生蒼き狼』ギルドさんでしょうか?」
若い女性の冒険者だった。
「はい、そうです」
「実は、私たちも新しくギルドを立ち上げたいのですが、相談に乗っていただけませんか?」
俺とアリスさんは顔を見合わせた。
「もちろんです。どんなことでも相談してください」
「ありがとうございます」
相談者の女性が安堵の表情を浮かべた。
「実は、私たちも大手ギルドで嫌な思いをして......」
ああ、俺たちと同じような境遇の人たちなんだな。
「大丈夫です。きっと素敵なギルドが作れますよ」
俺は自分の経験を基に、ギルド立ち上げのアドバイスを始めた。
仲間選びの基準、依頼の取り方、チームワークの大切さ。
「すごく参考になります」
相談が終わった後、アリスさんが言った。
「拓海さんって、本当に人の相談に乗るのが上手ですね」
「前世の経験が活かされてるのかな」
「前世?」
「あ、えーっと......昔から、そういうのは得意だったんです」
アリスさんが微笑んだ。
「拓海さんは時々、不思議なことを言いますね」
「そうですか?」
「でも、そういうところも好きです」
夜になって、俺は一人でギルドハウスの屋上にいた。
星空を見上げながら、これまでのことを振り返っていた。
転生、新しいギルドの設立、仲間との出会い。
レオナルドとの和解、アリスさんとの恋愛…。
全てが夢のようだった。
「拓海さん、ここにいらしたんですね」
アリスさんが屋上に上がってきた。
「一人で何を考えてるんですか?」
「色々と」
俺はアリスさんの隣に座った。
「これからのことを考えてました」
「これから?」
「俺たちのギルドは、もっと大きくなると思います」
「そうですね」
「でも、どんなに大きくなっても、今の雰囲気は大切にしたい」
「今の雰囲気?」
「みんなが家族のような、温かいギルドでいたいんです」
アリスさんが優しく微笑んだ。
「きっと大丈夫です。拓海さんがいる限り」
「ありがとう、アリス」
俺はアリスさんの手を握った。
「一緒に、最高のギルドを作りましょう」
「はい」
星空の下で、俺たちは未来への夢を語り合った。
前世の後悔を乗り越えて、本当に大切なものを手に入れることができた。仲間、恋人、そして新しい家族。
俺の第二の人生は、まだまだ始まったばかりだった。
『新生蒼き狼』ギルドの看板が、月明かりに照らされて輝いている。
明日もまた、仲間たちと一緒に新しい冒険が待っている。
今度こそ、誰も失わない。
今度こそ、みんなで幸せになる。
俺たちの物語は、ここからが本当の始まりだった。
【完】