1話 自由な少女
豪華客船の立派な個室のふかふかなベッドに身を預け、ゆったりと動く水面が視界に入る。
ある国を出て新たな地で生きていくためにこの豪華な客船に乗っています。
経験したことも無い穏やかで贅沢な船旅の真っ最中ですが、新しい生活を彩る旅の目的地が見えてきた!!
「よーし!やるぞー‼︎」
私、桜見 天奈は遥々遠い国からここメテオリーテ王国にやってきた!!
目的は平和な日常と私に魔法を教えてくれた師匠に言われて気になっていた冒険をすること。
そのために本当に色々頑張ってここまで来た。
沢山の人達や妖怪に追われ、蔑まれる生活を送っていました。
そんな私をここまで育ててくれた唯一良くしてくれた師匠は寿命でもう後が無いといい、私に全財産を預けて送り出してくれたのです!
最初の旅はせっかくなら豪華な船に乗りたい……そんな欲望のままに乗ってしまいましたが、正解でした!
お金は師匠が私を育ててくれた15年に稼いでくれていた分を渡されましたが、何故かもう3分の1が消えています。
まあそんな細かい事はいいんです。
だって私は今日誕生日なので!
16歳になった時、まるで新しい自分にでもなったかのような高揚感が溢れてきた。
これは自由を手に入れたおかげでしょうか。
しかしそんな快適な船旅は終わりを告げて、新たな地に足を踏み入れる。
「手始めにまずは……」
どこかに冒険者ギルドか魔導士ギルドが無いか辺りを見回す。
師匠からは生きていくなら冒険者が魔導師を目指せと言われていたので探しているのですが、それっぽい所は見当たらない。
逆に視界に映るのは食事を取るお店ばかり……。
ぐぎゅるるるるるるるるる~
お腹が悲鳴を上げる音が聞こえてきました。
誰でしょうか……まあここには私しか居ないんですが……。
なんだか悲しい……旅って1人だとこんなにも不安なんですね。
仕方がない……ここはまず、食事を取ることにしましょう。
不安なのはお腹が空いているだけと言う可能性もありますからね。
あまり外には出た事がありませんが、お店に入る前には財布の中身を見ておく必要がある――というのを師匠から学びました。
私はこれまでの人生でそんなことは一度もしたことが無いけど、一人立ちして冒険者になるのだから食費の管理もしないといけません。
(ふふ、ちゃんと師匠の教えを忘れていない私は賢いですね!!)
そんなことを考えながら大丈夫だろうと、財布の中を覗いてみる。
ガサゴソ……
しかしポケットの中からはなにも出てこなかった。
あれ?さては反対のポケットですね?まったく心配させないでください。
いつもなら左のポケットに入れている財布ですが、たまに右へ入れてしまう……そんなことは今まで――ありませんでした。
そもそも人の居る所へ行ったことが無いのでそんな経験もこれが初です。
財布を握って2日くらいですが……充分私の肌に馴染んでいる頃だと思います。きっと財布さんも私の側を離れたくないはずです!
僅かな希望を抱いてもう片方のポケットへ手を伸ばす。
ということでガサゴソと……。
しかし反対のポケットからもなにも出てこなかった。
……
……
「……財布がありません!!」
周りに人が居ない事を確認してから叫ぶ。
私は魔導士としてこの年齢では結構な実力を身に付けるまで到達したと師匠から太鼓判をもらいました。
全力でやれば大体の魔導士を相手にしてもけちょんけちょんにできるでしょう。
私は先生から優秀だと言われていたので当然、食事を済ませると共に店員さんに冒険者ギルドの場所を聞き出すという高等テクニックを披露しようと考えていたのですが……財布がなければそれも叶いません。
仕方がないですね。確か魔法の鞄に実家から持ち出した大量の宝石などがあったはずです。
お財布のお金を使い切ってもそれを売れば数年はなにもしなくても生きていけると師匠に言われたので早速頼りましょう。
ところで‥‥私の大切な大切な魔法の鞄はどこですか?
可愛らしいピンクのリボンと高級な魔物の皮で作った何でも入るゴージャスな黒い鞄なのですが……どこにもありません。
家から盗んだ……基、借りた鞄と宝石が無くなっていた。
もしかしなくても私は今、ピンチ?
一文無しの状況、ここまで辿り着くために乗ってきた船は既に出航して忘れ物を探すこともできません。
いえ、そもそも忘れてしまったのかすら怪しい。この魔法の天才と呼ばれた私が忘れ物なんかするとは到底思えません。
「盗られましたね?これ……」
船でこの大陸までやってきましたけれど、まだそんなに歩いていないので船に戻ればもしかしたら鞄を取った愚か者がいるかもしれません。
「まあもしかしたら愚か者さんがドジで船に落ちているかもしれませんが……」
そんな独り言を口にすることで無理やり自分を安心させる。
それにしても……静かですね……。
これでも私には連れがいるので私の独り言に突っ込みを入れてくれる相棒がいる……。
一人ではありますが、相棒は居ます。
私がずっと声を掛けているというのに一緒に付いてきた子は一切口を聞いてくれません。
何かしたわけでもなく、何かされたわけでもない。
何なら昨晩は誕生を祝ってくれて今朝は元気に一緒に船の上で無駄に高いくせに量の少ない朝食を取ったはず。
「どうしたのイズナ!!」
しかし先ほどと同様に返事が無い。
次はイズナに対して呼びかけたんだけど……おかしいな。
「迷子……?」
イズナは自分で自分の事を賢いというようなちょっと変わった子だけど、本当に頭が良い子です。
そんな子が迷子になるとは思えない……。
まさか私の鞄を盗んでどこかへ!?
「いや、あの子がそんなことをするわけがない」
それでは迷子が一番可能性が高いですね。
全く……小さいのだから保護者の側を離れないでほしいのに困った子です。
しかしこの街デザートローズは名前とは裏腹に大陸でも広い港。
小さい子を探すのは骨が折れるでしょう。
というかまだ船を出てそんなに歩いていないので迷子の可能性は低い。
となるとやっぱり……船……?
イズナと財布を一緒に置いて来てしまったのでしょうか。
とりあえず船の所まで戻って――
ブーーーーー
しかし、誠に恐ろしい光景が私の前に広がっています。
それは船が出航してしまったという絶望的な光景。
私はその様子をただただ大人しく黙って観ている事しかできませんでした……。
「あら……」
どうしよう、どうしよう……!!
こういう時は冷静にならないと!
私は天才魔導士なのだから船を魔法で止める!!
さ、さすがにそれは私でも無理そうです……。
え、本当にどうしよう!?このままイズナとお別れ……?
そんなの嫌……それに鞄の中には結構な大金が入っているので失うと生きていけません!!
とりあえずお金になる物を売ってすぐに出航する予定の船に乗せてもらえれば……。
私は自分の身体をまさぐり何かお金になる物を探しました。
そして……ある物が私の目に留まります。
それは師匠から頂いた私の亡き両親のダイヤの指輪でした。