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白鬱香

作者: 暁海斗

 2024年10月29日彼は死んだ。


最後に彼と話したのはいつだろう。彼を救うことはできなかったのであろうか。そんなことを考えている私をしり目に時間は一瞬で過ぎ去っていく。


私と彼は特別仲が良かったわけではない。彼とは、高校のころクラスメイトではあったものの、クラスの中心であった彼と私がかかわる機会はそう多くはなかった。しかし、彼の人懐っこい笑顔と、とても運動部とは思えない白い肌、チューリップのように誰からも愛されるような性格に私は好感を覚えていた。

 


 彼が私たちのいる世界から旅立ってから2週間が経過した。相変わらず彼のことが頭から離れない私は、少しでも気を紛らわすために大学の研究やバイトに没頭した生活を行っていた。そんなある日、自室でスマートフォンを触っていると、気になる書き込みを見つけた。


「もう生きているのに疲れた。」


その書き込みを見た途端、私は何とも言えない気持ちになった。そんな私の手は、かれにメッセージを送っていた。


「死んじゃだめだ。あなたが死んだら悲しむ人がたくさんいる。」


かれからメッセージが返ってきたのは送信した直後であった。


「自分はいてもいなくても変わらない。自分がいなくなっても悲しむ人はいないです。」


その言葉の後に彼はこう続けた。


「今から、僕があなたに遺書を書きます。この遺書は、僕から他人の自殺を止めようとするくらいにおせっかいで優しいあなたに贈る僕が他人に渡す最初で最後の贈り物です。興味がなかったらきれいさっぱり無視してください(笑)」


私はかれの文面に困惑しながらも、彼の言葉を受け止めようと心に決めた。

かれからのメッセージが送信されるのを待つ間、私が窓から空を眺めると、雨の中に浮かんでいる月が驚くほどに輝いて見えた。


かれからメッセージが贈られてきたのは2時間後のことであった。



「僕は今、17歳の高校二年生です。部活は陸上競技をしていて、自分で言うのもあれですがなかなかに頑張っています(笑)


僕の家族は4人家族で、年の近い姉がいます。父方の祖父は二年前他界していて、祖母は生きはいるけど認知症を発症しています。


母方の祖母は、母が中学生のころ離婚をしているので、母方の祖父にはあったことがありません。二年前までは喧嘩もしたけどとても楽しく日々を過ごしていました。自分の祖父が亡くなったあと、僕たち家族は少しずつ壊れていきました。


祖母の認知症が発覚したのもこの時期であったため父親は、想像できないくらい不安と衝撃を受けたと思います。祖父が亡くなった後、遺産相続の話が出てくると叔父と父親でいろいろな話し合いをしなければならなくなりました。しかし、父親は叔父に小さいころにDVを受けていたようで、叔父と会うだけでも大きなストレスを受けていたらしく、祖父が亡くなってから2か月ほど経った日、父は双極性障害とパニック発作と診断されました。


それから父親は調子を崩す日が増えていき、暴力や暴言が放たれることもありました。父親は僕以外に暴力や暴言を放つことはありません。理由はわからないけど、父親は僕にのみ暴力や暴言を吐くようになりました。


そして、そのころから認知症を患った祖母が一人で暮らすことができないと判断されて、うちに来ました。

母ももともと精神が安定していたほうではなかったため、ずっと気を張っていないといけないというプレッシャーと祖母の被害妄想による母への態度に対してしてのストレスによってヒステリックを起こすようになってしまいました。姉は大学に入学しており実家にいなかったので、


僕は一人ぼっちになりました。


そこから半年ほどたって、祖母は老人介護施設に入ることになりました。でも、家族の状況は変わらず、僕もだんだんと壊れていってしまいました。


そんな中、僕は高校に入学しました。学校では人一倍笑顔でいようと虚勢を張って明るくふるまっていました。そのかいもあってか、高校に入学した1ヶ月後には彼女もできました。しかし、家族の状況は一向に良くならず、家に帰ると毎日のように飛んでくる怒号やものにおびえて、ずっと泣いているような日が続きました。そんな生活が続いていると、学校では明るいのに、家に帰った後に連絡しても連絡が返ってこないという状況に彼女は僕の浮気を疑うようになりました。


そしてそのまま自然消滅という形となったのですが、僕に浮気されたということを友達に言い始め、僕は自分の精神状態のことを話すわけにはいけないと考えて反論しないでいたので学年中から後ろ指をさされるようになりました。このことがあってから、


学校での自分と家での自分の区別もなくなっていき何もかもがうまくいかなくなって自殺を考えるようになりました。


何回も自殺を考えながらも今回まで自殺をしなかったのは、この世に対して未練があったからだと思います。また、家族仲良く暮らせる、友達ともうまくやっていけるとどこかで甘えていたのだろうとも思います。誰を恨めばいいかわからない状況の中で、自分だけが恨まれる世界は正直に話すと殺してやりたいと感じるくらいにつらかったです。でも世界は殺せないので、


僕はみんなと同じように僕を恨んでみることにしました。


僕は、僕以外の人たちを絶対に恨むことはしません。


明日を生きる僕以外の人たちの幸せを心から願っています。


僕がもし過去に戻って生まれ変われるとしても、僕は僕の人生を選びます。


長い文章を読んでくれてありがとうございました。」私は、かれからのメッセージを読んだ後、なぜかかれの自殺を止めようとは思わなかった。かれの言葉は私では表すことのできないほど重たく優しい言葉である。そんなことを考えている私を横目に朝日が登っていった。

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