第93話 思いがけない大やけど
医務室に着くと、すでに怪我人でごった返しており、激しい試合が繰り広げられている事が伺えた。
しかし、どうやら流血程度では中へ入れて貰えずに外で治療をしているからだとわかり、骨折はしていないまでも歩行が困難なのでいったんベッドで休ませて貰えないかと保険医に交渉をした。
空いているベッドは無いので、怪我が軽い人から順番に叩き出されるためにベッドで寝ている全員が一斉に唸り始めたが、どれぐらいの怪我かを把握されている為に、太ももの打撲で寝ていた生徒が叩き出されてしまった。
しかし足を庇いながらもなんとか自立歩行が出来ているので、ベッドを退くのは致し方ないと言ったところだろうか。
1年生では無かったため面識は無かったが、何度も頭を下げてお礼を伝え、ヘレナをベッドへ寝かせた。
「ありがとう、運んでくれて」
押し黙っていたヘレナがお礼を言ってきた、
「良いよ気にしなくて、僕が怪我をさせてしまったんだしね。手伝うから防具を取ろうか、着けたままだと痛くて寝れないでしょ」
それを聞いたヘレナは僕の顔をまじまじと見つめて来た、僕は何の事だか意味が解らずに首を傾げると、
「私の事より自分の右手の事を心配したらどうだ」
ヘレナに言われて気が付いたが、両手の使えるヘレナの何を手伝うつもりだったのだろうか、
「あ、そうだった、じゃあ一つお願いしても良いかな」
そう言って僕は左手を差し出し、盾を取り外して貰った、本当は王子君に外して貰うつもりだったが色々あって今になってしまった。
「仲が良いねえお二人さん、全力で戦ったら恋が芽生えちまったか」
僕とヘレナがいちゃついている様に見えたのだろうか、保険医が僕たちをからかうついでに治療に来た。
「そんな事は無いですよ、お忙しい中すいませんが歩けないくらい痛むようなので診断をお願いします」
「はいはい、これは痛いかい」
「くっ、痛いです」
「なる程、力は入るかい」
「あ、ああ、これ以上は無理です」
「ふむ、足首は動かせるか」
「ふ、ふぅ、ゆっくり動けば何とか」
苦悶の表情を浮かべながら声を殺して呻いていたヘレナだったが、診断の結果はどうやら骨折はしておらず、少し捻っただけで心配するほどの怪我では無いようだ。
「まあ2週間だね、それまではこいつに世話になりな、いいかいお前が怪我させたんだろう」
「は、はい、わかりました。で、あの、僕の右手も診て貰いたいのですが」
「あー、これは、ふむふむ」
「あの、すごく痛いんですけど」
ヘレナを診断している時とは打って変わって随分と雑に取り扱われ、かなり痛い思いをしたけれどやはり骨折などはしていないようだった。
「まあ、ほっときゃ治るだろう」
「痛みはどれくらいで引きますか」
「うーんそうだねぇ、痛くなくなったらかな」
それは当たり前の事だ、がその場は何も言わない事にした。
「あんたがやったのか、違う、ああそう、でもあんたをここまで運んでくれたんだ、あんたこいつの右手の介助してやんな」
ヘレナは黙って聞いていたが頬を赤らめ小さく頷いた、まったくなんで僕の周りは人をからかう事が好きな人達が集まるのだろうか、
「先生も冗談は止めてください、僕は介助なんかして貰わなくても何とかなります、それに女性にはちょっと難しい事も有りますから」
「私じゃ嫌だと言うのか、何でも言ってくれ、私は敗者だからな、勝者の言う事は何でも聞かなければならないんだ」
そこでなぜヘレナが怒るのだろうか、それに勝ち負けでそんなに卑屈にならなくても良いのに、そんなヘレナを宥めて、
「介助が必要な時は友達を頼るから、ヘレナさんは気にしなくて良いんだよ」
「何を言うんだ、私は何だって出来るぞ」
「それでも僕の部屋までは来れないでしょう、僕もお手伝いするのは寮の階段までのつもりだし」
「・・・行ける、大丈夫だ、それぐらいはどうって事は無い」
「だから、そうしたらヘレナさんはどうやって自分の部屋に戻るの、僕の部屋で寝泊まりするわけにはいかないでしょう」
何を想像しているのか顔色を変化させながらヘレナが黙り込んでしまった、僕の事よりも足を怪我している自分の心配をして欲しい、
「確かに、寮で部屋まで着いて行くのは看過出来ないな。仕方が無い、トイレの時も夜寝る時も友達に頼むんだな」
事が拗れた元凶である保険医が話しを終わらせた、もとよりそのつもりだったていうのに。
余計な時間を食ってしまったが、僕は治療のお礼を言うと最終決戦の場へ向かった。
治療って、何かして貰ったっけと思いながら。




