第85話 師の教え
アレックスの太刀筋は良く言えば師の教え通り、悪く言えば振りかぶった剣から繰り出される太刀筋はすべて予想の範囲を超えず、躱すだけならばそれほどの労力を必要としなかった。
未知の能力を持っている狩竜人剣のみが脅威の対象で、能力がばれてしまったアントニオが落胆していた気持ちも今なら理解が出来る。
幸い僕が持っている狩竜人剣は丈夫なだけという便利なようで最強ともいえる能力なので、対戦相手が能力を理解していたとしても、この剣を破壊する手段が無い為に、どんな能力の狩竜人剣で攻撃されようとも、すべての攻撃を剣で受け止めて即座に反撃が出来る。
アレックスの攻撃方法を見ても持っている狩竜人剣がどんな能力なのかがわからないため、僕は一か八かでその剣を受けてみた。
するとなんて事も無く受け止める事が出来、逆に受け止められたアレックスが驚いていた、
「なんとも・・・無いのか」
離れ際にアレックスが呟くように言った、どういう意味なのかは解らないけれど、どうやら僕の持っている狩竜人剣でアレックスの攻撃は防げるようだ。
僕は言葉を発する事無く小さく二度、三度と頷くと、それを見たアレックスの表情がみるみる曇って行くのがわかった。
それからのアレックスは防戦一方で、時折力無く振る剣を盾で受けたりしながら間合いを詰め、じわりじわりと場外へ追い詰めていった。
それから何度目かの打ち合いの時、盾を持つ左手に違和感を感じた。
アレックスの打ち込みを盾で往なしてからの踏み込み切りで場外へ押し出せるかと思ったら、盾を持つ左手に痺れが走り、思わず盾を落としそうになってしまった、迫りくるアレックスの剣を踏み込んでいる僕には受け止める事が出来ない。
咄嗟に身体ごと右に転がり、アレックスは視界から僕が消えた事に驚いて次の一手を振る事が出来ないでいた。
その一瞬の勝機を逃したアレックスの前から後ろへ転がって逃げ、体勢を立て直しても左手に力は戻って来なかった。
「なんだこれ」
何の以上も無い右手と比べて、盾を持ち上げる事すら敵わない左手の非力さを嘆いた、本来ならそんな事は言う必要も無いのだが、一応アレックスの質問への返答として聞こえる様に声を張った。
「おかしいな、あれだけ剣を受けても右手は何とも無いのか」
「うーん、まあ何ともないね」
アレックスも僕の意図を理解してくれているのか、間合いの外から尋ねて来た、当然僕もそれに答えた訳だ。
「じゃあやっぱり効果は有るんだな、右手に関しては良くわからないが」
アレックスはそう言って身構える事で仕切り直しの合図としたようだ、当然僕は右手を上げる事しか出来ず左手は僅かに盾を握っているだけだ。
アレックスがじわりと間合いを詰めて来る、さっきまでの僕と同じだ、ただ違うのは僕が間合いを詰められている方だという事だけだ。
アレックスは盾を斜めに構えて大きく振りかぶった、左からの攻撃を盾で往なす事が出来ない僕への最善の構えからの攻撃だ、僕の縦の攻撃も横からの攻撃も斜めの盾で往なされ、体勢を崩すことなく剣を振り抜ける、それが出来れば腕なり胴なりに一撃を入れる事が出来、それは勝利へと繋がっている。
当然そう思っている事は僕は瞬時に理解した、というよりも僕でもそうするからだ、行動が読まれている事の恐怖はそこに有る、予想内の行動は怖くない、野生の獣は同じ動きをしない。
その事をレイに散々教え込まれた僕はどうすれば勝てるのかの道筋を見つけていた、ここは盾で塞がれるために剣で攻撃をしていてはアレックスにやられてしまう。
攻撃をするのはここだ。
僕の剣速はレイに遠く及ばない、でもアレックスよりは速い、振り込んでくるアレックスの剣を後ろから引っかけて引っ張ると同時に身体を回転させてアレックスの後ろへ回った、散々上級者に弄ばれたお陰で僕にも身に付いていたようだ。
剣はまっすぐに受け止められた時は体勢を崩す事は無いけれど、横や後ろから力を加えられると途端に今の態勢を維持する事が出来ない。
一度ならず二度までも僕が目の前から消えてしまったアレックスは、よたよたと体勢を崩しながら場外へ出てしまうのを防ごうと踏ん張っていたが、後ろに回り込んだ僕が思い切り尻を打っ叩くと勢い良くずっこけて、尻からは大量の汁をまき散らして敗北した。
「あと少しだったんだけどなぁ」
倒れているアレックスへ手を差し伸べている時にアレックスがそう漏らした、確かにその通りだと僕は思い左手に力を込めると勢いよくすっぽ抜けてアレックスは尻もちをついた。
「おい、なんで左手なんだよ、上手く動かないんだろ」
「右手は剣を持ってるから、盾はベルトで着いてるけどさ」
自分の力で立ち上がったアレックスは呆れた顔をしていたが、その原因は自分の使っている狩竜人剣の所為なので苦い顔になった。
「何で左手が痺れたか教えてくれる」
僕は素直にアレックスに尋ねると、少し考えた後でアレックスは答えてくれた、
「最新式の狩竜人剣だから余り教えたくは無いけど、負けたから教えても良いかな」
僕は満面の笑みで頷くとアレックスも笑顔になり剣について詳しく話し出した。




