第75話 学年戦
次の日の朝、教室の自分の席でいつもの様に授業が始まる前に王子君とアントニオとたわいもない話しをしていると、珍しくブーフーウーの三人が近付いて話しかけて来た、僕との一件の後はあまり絡んで来なくなり、クラスでの地位も下がりっぱなしで、とどめのバートン先生との件も有り、今まで以上に貼れ者扱いをされているあの三人が僕に話しかけて来た。
「シリルー、お前も剣戟出るんだろー」
この語尾を伸ばした話し方が僕を妙に苛つかせる、露骨に顔に出てしまっていたのか睨みつける様に見えたらしく、三人の顔も険しくなる、
「そんな顔していられるのも今の内だからな、学年戦では覚悟をしろよ」
三人は言いたい事だけ言って離れて行った、王子君は何も言わなかったがどうやらそれは笑いを堪えていたためで、何とか噴き出さずに済んだところで涙を浮かべながら、
「完全に小物の台詞だけど、何か秘策でも有るのかも知れないな」
「どうだろう、何も無くても強がる奴っているから、案外それかも知れないよ」
僕の辛辣な言葉に驚いたのか王子君が表情を変えた、どうやら僕は自分が思っていた以上に苛ついていたようだ、そんな僕を窘める様にアントニオが口を挟んで来た、
「なんにしても油断はしない事だな、俺もここで無様な姿は見せない様にそれなりに準備はしているぞ」
「準備って言ったって、普段から鍛錬しておく以外に何か有るのか」
僕はいたって真面目に答えたつもりだったが、アントニオにとっては想定外だったらしく驚いた顔をして、
「シリルは何も準備していないのか、それこそレイナルドさんから何か送られてきていないか確認した方が良いぞ」
「そう言われても、レイからの荷物なんて一度も届いたことは無いし、他に送って欲しい物と言うと肉・・・ぐらいかな」
「おいおいそんなんで大丈夫かよ、王子は国から何か送られてきてるか」
「ああ、俺も最新のが届いている、シリル、何も準備出来ていないならまずい事になるかも知れないぞ」
「えええ、王子君までそんな事言って、最新とかいったい何の事なの」
僕の言葉に二人は顔を見合わせ、何かを察したのか深いため息を吐いて、
「ここの剣戟は狩竜人武器が使えるんだけど、当然持っていないよな」
「え、そんなの初耳だよ、それに狩竜人武器は普段の使用が制限されてる筈だけど」
「もちろん竜の狩りに使う様なのでは無いぞ、出力も抑えられているし、使用時間も短いし、それなりに費用も掛かるし」
「あー、お金がかかるならその時点で無理かな、これ以上レイ達に甘える事は出来ないよ」
「それじゃあ剣戟大会は参加するだけになっちゃうな、せっかくシリルと手合わせ出来ると思ったのに」
「もし一回戦で僕と当たったなら、狩竜人武器を使わなければ良いじゃないか」
僕の言葉にアントニオはさっと顔を背け、
「せっかくだから使わないとな、難しいかも知れないけど出来ればまた予選大会にアルデンサルに行きたいしな」
「あー僕も行きたいな、またあの美味しいスープが飲みたいよ、アントニオはあのスープは飲んだ事ある」
「アルデンサルのスープって、豆や玉ねぎのじゃあ無いよな」
「ぜんぜん違うよ、とっても美味しいスープだよ、透き通っていて湯気まで美味しいあのスープ、深く複雑な味の奥からはじんわりと甘みを感じて、飲み込んだ後に鼻から抜ける香りまで美味しい、まるで夢を見ているかのような気持ちにさせるあのスープ、アルデンサルに行ったのに飲めていないのは勿体ないけど、あの宿屋でしか出していないのかな」
「シリルが言っても信用は出来ないけど、相当美味かったみたいだな」
「もちろんだよ王子君、僕だっていつも蛇やカエルを食べてるわけじゃ無いんだよ」
「ははは、そりゃあそうか」
僕と王子君は笑い合ってこの話しは終わりだと思っていたけど、口をあんぐりと開けたまま動かなくなっていたアントニオが、突然僕の両肩を掴んで来た。
思わず痛い、と振り払おうとしたがアントニオのくせになかなか振り払う事が出来ず、仕方なくされるがままになるとアントニオは目を血走らせながら、
「シリル、レイナルドさんと一緒にアルデンサルで宿屋に泊まったんだな」
「そうだよ、ちょっと痛いから手を放してくれないか」
アントニオはゆっくりと僕の肩から手を離して話しを続けた、
「恐らくお前が泊まった宿屋ってのは迎賓館だ」
「へーそうなんだ、迎賓館って名前の宿屋だったんだ」
僕の言葉にアントニオは顔を押さえてため息を吐いた、隣で王子君も苦笑いをしている、
「国としても大事な来訪者を泊める為の特別な施設の事だよ、お前は国を挙げて大事な客人として持て成されたって事だ」
「そうだったんだ、道理で食事も豪華だし、部屋の内装は豪華だし、受付も帳簿も無い筈だ」
「お前は凄いよ、どれだけ凄い事か解ってないなんて凄いよ」
アントニオが何を言っているかわからない、どうしてこうなっってしまったのか、
「それだけのお客様だと認めたという事ですね」
話しを聞いていたのかジェイミーが会話に混ざって来た、何やら涎を拭っている様に見えるのだけれどそれは気のせいだろう、
「そんなに持て成されるような事をしていないんだけど・・・、ああ、罪滅ぼしか」
「罪滅ぼし?」
その場に居る全員がの言葉の意味が解らずに聞き返して来た、そして僕は口を衝いて出てしまった言葉に後悔をした、あんな事をここで話す訳にはいかない。




