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第71話 禁忌の欠片

「さて、我が国の旗艦にぶつかって来た割りには手ごたえが無いが、まさかこの程度で狩竜人からお仲間を助け出せるとでも思っていたのか」

余りの呆気なさに姫の口から愚痴が零れた、

「なぜその事を知っている、まさか知っていて我らに盾突いたのか」

柱の陰から命令を下していた男が姫の前に姿を現した。全身黒尽くめなのは他の者と変わらないが、その胸には金色の二重丸の中にバツ印の入った、身分の高い幹部だけが付けることが許されているペンダントが輝いている。

「知っていたから何なのだ、だからと言って我が国の旗艦に衝突した罪は消えぬぞ」

「何を言うか、我らは回避行動を取っていたにもかかわらず、お主らが船をぶつけて来たのであろう」

「そうか、ならばなんとする」

なぜ姫様がここまで自分たちに執着しているのかの理解が出来ず、かと言って話しをしても通用する相手では無いと悟った幹部は懐から錠剤を取り出した。

「私の前で更に罪を重ねるか、そんな物を飲んでは生きて帰れぬぞ」

「うるさい、こうなったら貴様も道連れにしてやる」

この期に及んでいまだに姫の実力を見誤っているのか、ごちゃごちゃと言うために柱の陰から出て来ずに、こそこそと隠れたままだったのなら錠剤をのみ込むことが出来たかもしれない。

錠剤を呑むために口に運んだ手はあらぬ方向へ曲がり、だらんと垂れ下がったまま力を込める事が出来なくなった。幹部は何が起こったのかわからずにきょとんとしていたが、遅れて来た激痛にもだえ苦しみながら悲鳴をあげてのたうち回った。姫が立っていた場所から自分が立っていた場所まで優に10メートルはあり、間に倒れている者たちも居る、油断をしていた訳では無い・・・と思いたかった、目の前に持っていた錠剤を口に運ぶまでどれだけの時間がかかるというのだ、確かに視線は錠剤を捉えていて姫からは外れていた、だとしても、倒れている人を避けて自分の下へ来る前に、事は済むと思ったがそれが油断だというのか。幹部が思う事は自分は何も悪くない、だった。

姫は叩き落とした錠剤を鞘入りの大剣で押しつぶすと、その場を離れて艦橋への階段を登ろうと歩を進めると、倒れていた幹部が立ち上がっている事に気付いた。

その足元には潰された錠剤では無く、幹部の唾液が残されていた。

「くくく、もうどうなってもいいやぁ。皆殺しだあ」

垂れ下がった右手をぶらぶらとさせながら、明らかに一回り以上大きくなった身体を震わせながら幹部が近付いて来る。

それを見ていた姫の口元には微かな笑みが漏れ、階段から脚を下ろした。

「落ちている物を舐め取るとは情けない、まあお前たちの矜持などそんな物だろうがな」

剣で潰しただけならそうする者が居てもおかしくは無い、本来なら潰す事などせずに懐に仕舞うなりすればそれを使われることは無かっただろうに、竜をも屠ると言われている禁忌の錠剤、その存在を知ってはいたが、聞こえてくるのは噂だけで興味があった事は否めない。

そしてそれを使用した者が、本当に竜よりも強くなるのか。

姫はゆっくりと近付く幹部からの圧を感じ、噂は本当かも知れないと一瞬で悟った。

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