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第70話 幸か不幸か

白い船は前進を続け、そのままでは確実に衝突してしまうだろう。

それでも白い船は全く回避するそぶりを見せず、代わりに警告を受けた黒い船が慌てて回避行動を取り始めた。右に回頭をしながら船体を下降させや、それを見ていた姫様は握りしめていた大剣から左手を離すと左下方向を指し示した。当然それを見た船室の乗組員たちは覚悟を決め、姫様の指し示す方向へ舵を取った。

「姫様、流石にめちゃくちゃです、後でそう言い訳をするのですか」

甲板にはすでに姫様が一人で仁王立ちしており、船の中から大声を出して姫に意見をしているが、姫に聞こえているのかいないのか姫は微動だにしない。

黒い船は回避しているのにも関わらず、同じ方向へ舵を切る白い船に対して慌てふためいている声が聞こえてくるようだ、はるか前方で繰り広げられている前代未聞の狩竜人船同士の空中衝突に、流石のシンディたちも恐怖を感じていた。

「流石にあそこまでの事になるとは思わなかったわ」

「命の危険があったかと言われれば疑問だけどね、あの子なら何とかしちゃったんじゃないかな。シンディはどう思う」

「そうね、多少なりとも自分からその気になっていればいけると思うけど、真夜中に叩き起こされて暴風雨の中でいきなり戦闘開始じゃあ良い気はしないでしょうね」

「私も船の中から様子を見てたし、私たちの援護が有れば大丈夫だったでしょうね」

「まあだとしてもお姫様はお怒りな訳だ、怖い怖いあまり関わりたくは無いわね」

「どうしましょう、一言言っておいた方が良いかしら」

「大立ち回りは見てみたいけど、どうせすぐに終わってしまうわ」

「でしょうね、なんせ世界最強のお姫様だからね」


激しい衝撃と火花をまき散らして二つの船が衝突した、と言うよりも衝突をさせた。

身体を固定するためにしがみついていた者たちももんどり打って倒れた、仁王立ちしていた姫様も衝突の際には踏鞴を踏んでしまった。

「なんとこの私が踏鞴を踏むとは、船同士の衝突と言うのもなかなかやるな」

そう言い残して甲板を走り抜けると、白い船から黒い船へ飛び移った。

黒い船の甲板を走り抜ける白い閃光を遮るものは何も無く、ただ走っているだけで船内への潜入を許してしまった。

「何をしている、早く捕らえよ」

かろうじて被害の少なかった者が声を上げた。だからと言って簡単に捉える事が出来る相手では無い。

それでもぶつけた所を押さえながら数人の者が立ち上がった。

頭の上から足の先まで黒尽くめのローブで覆われた者たちは、そのローブの中に隠し持っていた黒い刀剣を抜くと姫様の前に立ちはだかった。

「私の前に真剣を抜いて立つとは、破滅願望もここまでくると滑稽だな」

ただでさえひらひらと舞うローブと同じ色の刀剣は、本来ならその剣先を認識することは難しいのだが、当の姫様はそんな事は気にも留めず、鞘に入ったままの大剣を小枝のごとく振り廻し、歩む速度に左程の変化も見られずに立ちはだかる者たちを退けてしまった。

「なんじゃ、ぜんぜん大したことないでは無いか」

せっかく衝突による怪我を免れた幸運も、鞘に入ったままとはいえ姫様に軽く撫でられてしまっては、立ち上がることも出来ないほど、しこたま船体に身体をぶつけていた方が幸運の持ち主だったという事だろう。

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