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第65話 アリスターの思い

「俺が本当の事を言うと思うか」

当然の問いである、力で屈服させられてすぐに口から出る言葉など何の重みも無い、ただその場を凌げれば良い、聞こえの良い言葉を並べるだけだと思われても仕方が無い。

「そうね、それでも良いの。それほど興味が無いから」

シンディの言葉に目を見開いてアリスターは驚いた、そしてすぐに激昂して立ち上がったところで右手の激痛に阻まれて再びしゃがみ込んだ。

「それで、どうてこんな事をしたのかしら」

アリスターは再びシンディに問い詰められた、流石に口答えする気にも成れず痛みに耐えながらアリスターが口を開いた、

「罪を犯したかったんだ、そうすれば俺は相応の罰を受ける事が出来る」

「そうすれば楽になれるとでも言われたのかしら」

シンディは呆れた顔をして言い放った、アリスターはそんなシンディの態度に腹を立てるような事も無く淡々と話しを続けた、

「俺は罰を受けなければならない、俺は仲間を助ける事も無く、敵を討つことも無く、俺は船を降りてしまった。罪を償う事も出来ない、誰も俺を責めてくれない、そればかりか俺の事を労りやがる。俺はそんな事を望んじゃいない。目の前でバラバラになった仲間をその場に置いて来たんだ、そんな大悪人をなぜ労わる、俺を責めてくれよ、そうじゃ無ければあいつらに顔向けできない、石を投げて陰口を叩いてくれよ。それだけの事をしたんだ、それなのに、それなのに・・・」

次第に感情が昂ったのか頬を伝わる雨粒も一層激しくなり、嗚咽により声を出す事が出来なくなっていった。

「そして、黒龍教に入信したのね」

黒龍教、その名を聞いてアリスターは平静を取り戻したのか、すぐにシンディに向き直り話しを続けた、

「船を降りてからもずっと眠れない日々が続いていた、そこに救いの手を差し出してくれたんだ、ここで黒龍の建言する日を待てと言われて、そして機は熟したと指示が来た。暴風雨が吹き荒れる中でこれを掲げよと」

アリスターは素早く後ろへ飛びずさると、背負っていた鞄から淡く光るビンを取り出した。

もう折れた右手の痛みなど感じていない様に、プラプラとさせながらビンを天に掲げている。

急なアリスターの動きに、素早く反応したシンディがアリスターに切りかかる。

アリスターの動きは先ほどとは明らかに速度を増し、瞳から光を失ったように見える事から何かしらの薬物を使用している事が推察された。

軽快にシンディの攻撃を躱していたアリスターだったが、肝心な環境変化を覚えていなかった、屋上には普段は何も障害物は置いていない。

ただ今日は落し物が有る事を失念していたのか、すでに意識が無かったのか、投げ捨てられていた肉塊に巧みに誘導されている事に気付かず、肉塊に足を滑らせたアリスターは後ろに倒れ、受け身を取る事が出来ずにしこたま後頭部を打ち付けてそのまま意識を失ってしまった。

シンディは転がって行くビンを素早く拾い上げ服の下に隠すと、天を仰いで何も変化が無い事を確認して安堵のため息を吐いた。

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